【半感応式心霊レーダー】

 あの事故から一週間後。

確か金曜日だった。

 美佳は、会社の退社時間になると、珍しく定時に帰れるように手配していた。

 課長や課員の人達も「優君によろしく」と美佳を見送ってくれた。

徒歩で、渋川市内のファミリーレストランに足取りも軽く向かっていた。

 一応、美佳も通勤用の軽自動車を所有していて、いつもは自動車通勤だ。

 公共交通に従事しているのにマイカー通勤は良くないと思われがちだけど、列車が緊急時や異常時に、事故現場などに移動する足が他に無いので許可されている。

 美佳は、可愛い系のミニのワンピース姿。

今夜は、渋川市内で美佳と食事をする。

 雨宮京子は、父親と学会の基調講演に助手として参加するので来ない。

  渋川市の市内。

 交差点の角にある一階が駐車場で、二階に店舗があるファミレス。

ドアを開ける。

ザワザワと話し声が騒がしい店内。

「いらっしゃいませ」

 店員の声に迎えられる美佳。

「先に連れが居る筈ですが……鈴木」

「鈴木様は……奥のお席でお待ちです」

「ほい」

鈴木優は本を読んでいた。

「ごめん。遅れた」

 美佳の服装をみて鈴木優は

「うわっ。可愛い」

「イヒヒ。その言葉を待っていた」

「スカート短すぎない?」

「そうか?」

「目のやり場に困るよ」

 美佳はにっと笑う。

「ほう。優もアタシで興奮する訳だ」

 優は顔を赤くした。

「なんか不思議と悪い気はしないな」

 いままで美佳は、メカっぽいモノや鉄道にしか興味が無かった。

 人間に興味が無かった。

 それが、いつも隣にいるのが当たり前と思っていた人物が他の女の子に奪われてしまう危機に直面して、初めての感情に戸惑っている。

 美佳なりに、危機を脱する作戦を模索していたが、少なくとも気をひく事は成功したようだ。

 美佳は「アタシ。アルコール飲むけど」

鈴木優は「僕は食事だけで良いや」

「付き合い悪い奴」

「ごめん」

「すぐ謝る。優は謝る必要はないよ」

 美佳は、テーブルの呼び出しボタンを押す。

美佳は、メニューなど見ないで押した。

美佳の好物であるフライドポテトを注文するのだと鈴木優は予想を付けていた。

 店員が来ると「生ビールとフライドポテト」と嬉しそうな顔で注文した。

 注文した後に、美佳はテーブルの窓際にある注文用のタブレットを発見する。

「なんだよ。ピンポン押さなくてもタブレットで注文できたのか。ほう」と手に取る。

 鈴木優は、「スマホやタブレットで何でもできるようになったよね」と言い出す。

 美佳は「あぁ。でもさ。スマホ事故も多いよ。先日もさ……仕事の話は止めるか」

 鈴木優は「いいよ。差し障りのない程度で美佳ちゃんの仕事ぶりを聞きたいよ」

「歩きスマホって、後処理が面倒なのよ」

 美佳が語りだす。

「駅とか、殆どの人が普通に歩きスマホしているよね」

「危機感無いっていうか。当事者にならないと理解できないのよ。皆がしているからオッケー程度の認識」

 美佳は仕事のストレスを愚痴った。

「好きな事を仕事に選ぶとギャップがね」

「あはは」

「ストレスが溜まる。今晩は呑むよ」

 店員が美佳のオーダーを持ってきた。

「生ビールとフレンチポテトです」

 美佳は「よし。優は何頼んだ?」

「あっ。忘れていた」

「早く頼め」

鈴木優は、タブレットでハンバーグライスを注文した。

「子供みたい。ハンバーグだって」

「ハンバーグは大人も食べるよ」

「まぁ。いいけどさ」

「美佳ちゃん。ポテト好きだよね」

「あぁ。コレがあればとりあえず飲める」

 鈴木優は、「乾杯」と既に飲んでいたソフトドリンクバーの紅茶のカップを美佳に向けて差し出してきた。

美佳もジョッキを持ち上げコツンと音を立てて乾杯をした。

「そうだ。美佳ちゃん。コレ」

鈴木優は美佳に奇妙な装置を見せた。

 白くてパソコンのマウスみたいな楕円形でボタンが3つくらいついている装置。

「おい。コレって」

 美佳は、目をキラキラさせて奪い取った。

「前から美佳ちゃんが欲しがっていた半感応式心霊レーダー」

「えっ。よく智ちゃんが手放したな」

 智ちゃんとは、優が所属しているRRMSチームリーダーだ。

 南場智子という女性は大学生だが、奇妙なメカを自作する技術者でもある。

美佳は、まるで子供が玩具を貰ったように喜んでいる。

「南場さんが、GPSバージョンの高性能な新作アプリを作ったから半感応性の旧型は要らないって破棄しようとしたから貰った」

 この装置。半径一キロ以内の心霊を探知した時に動作する。

事前に遭遇しないように迂回、もしくは回避処置が可能な指示を教えてくれる心霊レーダー。

 田舎の通行量の少ない交差点の信号機と同じ理論。対象物をセンサーが感知した時だけ作動させる原理に似ている為、半感応性と名
付けられている。

美佳は「GPSとかアプリとか心霊もハイテクな奴に検知できるのか?」

不思議そうな顔で鈴木優に質問した。

「良く判らないけど衛星から測位した情報を、心霊レイヤっていう層にオーバーレイさせてデータを可視化するって」

 美佳は「解らん。アタシにも解るように」

「えっ」

「一言で説明するには?」

「スマホがあれば半感応レーダーは不要」

「なるほど、最初からそう言えよ」

「それで説明になるのかな?」

「兎に角。半感応性がお役御免か」

「うん」

「なんでも便利になっていくな」

 美佳は腕組をして

「新型は、スマホアプリで使える訳か」

「うん、スマホ見ながら検知できるって」

「それ、歩きスマホにならないか?」

「あ。そうだね」

「でも、凄い発明品だな」

鈴木優も「でも欠点があって、経度とか緯度を使って心霊を判断するから、常に同じ場所に居る位置情報が明確な地縛霊しか感知できないとか言っていたよ」

 南原智子は、心霊が見えてしまう体質の為、自らが心霊に遭遇しないようにレーダーを開発して常に身に着けていた。

 鈴木優の話だと、半感応性は新型には劣るが移動する心霊でも、対象物にあたり情報が跳ね返る事でレーダーが感知するので都合の
良い面もあるとの事だ。

 美佳は「メカも個体ごとに利点や欠点もあるよ。人間と同じだ」と持論を語った。

心霊に遭遇しない為のレーダー。

ただ、美佳の場合は逆で、怖いもの見たさで欲しがっていた。

「よし。優。今晩。早速。試してみるか?」

「いやだよ」

 美佳は、言い出すと絶対に曲げない。

早々に会計を済ませ店を出る。

美佳が反感応式心霊レーダーのスイッチを入れた。

『このさき、100m左折後200m先に心霊が居ます。地縛霊の為。動けませんので回避可能です。迂回を推奨します』

 合成音声が流れてきた。

『おおっ。早速ヒットした』

 本来の目的は、心霊に遭遇しないように設定されているのだ。

 美佳は「これは行くしかないよね」と駆け出す。

「美佳ちゃん。ダメだよ」

「ほい。100m先左折」美佳は走る。

「美佳ちゃん。待ってよ」

『あと100mで心霊に遭遇。引き返してください』

「ほいほい。あと100mで御対面」

 美佳は、50m先で立ち止まった。

50m先にあったのは佐々山電鉄の踏切だった。踏切は不気味に佇んでいる。

電柱の下には、枯れた花、朽ち果てた菓子やジュース、たばこの箱が置いてある。

「八墓踏切だ。此処は洒落にならない」

 佐々山電鉄では、ダントツの事故発生件数の多い魔の踏切。

 美佳は、「怖っ。優。此処だけはヤバイ」

立ち去ろうとする美佳。

むしろ鈴木優が逆に何かに取りつかれた様に踏切に向かって駆け出した。

「おい。優。どうした」

カンカンカンカン……。

警報機が鳴りだし、遮断機が下りていく。

鈴木優は、踏切の遮断桿を潜る

美佳は「おい。優、戻れ」

 鈴木優より先に線路内に先客がいた。

「そういう事かよ」

美佳も慌てて駆け寄る。

 この踏切は高低差があり、まだ列車は見えないが明らかに接近しているのが煌々と列車のライトで解る。

 事故が多いのは、心霊の所為ではなく運転士から見て踏切上に支障物を認識した際にブレーキを掛けても制動距離が間に合わない事
が多いからだ。

 そのため、この踏切は非常ボタンがある。

非常ボタンが出来ても、自殺を考える人は何処かに隠れていて、絶対に列車が止まれない距離で線路に躍り出る。

 それで“列車にはねられ”とマスコミは鉄道側が人を轢いたという見出しをつけたがる。

 それが、美佳にしてみれば理不尽なのだ。

(頼む。止まってくれよ)

 美佳は、踏切の非常ボタンを叩いた。

ビーという甲高い鳴動音。

踏切から少し離れた場所に停止信号を発光する灯火が激しく点滅しだした。

 それは、踏切に居る鈴木優と美佳にも解るほど周囲を赤く染め、激しく点滅する。

 プワーンと列車の汽笛が鳴り響く。

「よし、運転士が気付いた」と美佳はホッとした顔で鈴木優に告げた。

 カンカンカンカン……。

美佳は、列車が視認できる場所まで駆けると「停止確認」とガッツポーズをする。

 鈴木優が救助した人物を確認した。

遮断機手前で鈴木優が抱きかかえている。

 胸のふくらみがある。

女性だ。

 カンカンカンカン……。

薄暗い中で踏切の警報機が交互に赤く点滅する中、美佳が改めて顔を確認した。

「まさか。アンタ」

 あの渋川新町駅でホームから転落した女子高生だった。

相手も美佳の顔を思い出したらしい。

「佐々電の人?」

「そうだよ。いま飛び込もうとしただろ!」

「なんで止めたのよ」と沙也加が呟く。

「ふざけるな!迷惑を考えろ」

 沙也加は、大声で叫びだし暴れだした。

 訳の解らない事を叫びだしている。

鈴木優を払いのけて逃げ出そうとする女子高生。

「逃がすかよ。他で死なれたら困る」

慌てて押えようとした美佳を跳ね返した。

「この野郎」と美佳が追いかけ前に回り込む。

 美佳は、物凄い形相でパンと沙也加の頬を平手打ちした。

 乱暴な話に思えるけど、自殺を考えて居る人間に正論や説教、なぐさめは逆効果だ。

 逃がしたら再度、別の方法で自殺を試みる。人命救助の為の暴力は仕方がない。

 美佳は、馬乗りになる。

 兎に角、頭が冷えるまでは逃がせない。

 美佳が、もう一度構えると、鈴木優が「美佳ちゃん。ダメ」と静止した。

 沙也加は泣き出した。

「死にたくない。でも……」

 そして

「歩きスマホでホームから足を踏み外しただけなのに……こんな事になるなんて」

 鈴木優が「相談にのるよ」と語りかける。

 突然、泣き出して美佳に抱きついてきた。


美佳は「こりゃ。学校で何かあったのかも」

 カンカンカン……。

踏切の鳴動音で美佳は我に戻った。

「電車!止めたままだ」

自分のスマホで佐々山電鉄の運転指令所に連絡を取り始めた。

 美佳は「優。この子。頼む。今度は逃がすなよ」と鈴木優に託した。

 美佳は、少し離れた場所で現状を説明して、現在は運行に支障が無い旨を連絡した。

 列車は、運転を再開した。

美佳が戻ると「アブねぇなぁ」と呟く。

 鈴木優が沙也加の隣に座り

「美佳ちゃん。この子、むかしの僕と同じ目をしている。僕に少し話をさせて」

 鈴木優は、中学生時代に女性みたいな外見でクラスメートの女子達から壮絶なイジメを受けていた。

 暴力的なイジメではなく、殆ど精神的なイジメだったり、根も葉もない嘘を拡散されたり、鈴木優が陰で誰かの悪口を先生に密告しているとかの陰湿な仲間外れ工作。

 鈴木優は、自殺までは考えなかったが、人との関りを嫌い、自分が世の中で要らない人間に思えて仕方がない鬱病手前の苦しい時期を経験した。

 スクールカウンセリングを受けたので、そういう心境の人間の感情は理解できる。

「沙也加ちゃんだったよね」

 鈴木優が、優しく声を掛け、沙也加の気持ちを落ち着かせる試みを始めた。

 美佳は、それを黙ってみている。

鈴木優は、沙也加が逃げないように軽く手をつないだ。

 事故が多い踏切だけに近隣住民は、列車が停止すると即座に家を飛び出してくる習性が身についてしまったらしい。家々の玄関の灯りが点き、人々は踏切で何が起きたのか遠巻きに見ている。

 出来るだけ穏便にしたかったけど、既に警察を呼ばれたらしく遠くからサイレンの音が響く。

「大騒ぎになっちゃった」と震えだす沙也加に、鈴木優は「大丈夫」と答えた。

 泣きながら沙也加が鈴木優に語りだす。

 やはり、学校だけでなく何処で調べたか解らないけど、沙也加の個人情報が何者かに拡散され、自宅に嫌がらせ電話が掛かって来るようになった。SNSで全く知らない人達から歩きスマホで電車を緊急停車させた迷惑な女子高生として吊し上げを喰らっているという。

 沙也加の家には佐々山電鉄からの損害賠償請求、怪我をさせた高齢女性の治療費、刑事罰などの罰金が科せられる。

 なによりも沙也加を、こういう手段に追い込んだのは、大好きな他校の彼氏からの別れを告げられた事だという。

 近隣住民が見守る中、警察のパトカーが到着した。

 警察官に状況を説明して、そして沙也加と一緒に美佳と鈴木優も警察署に行く事になった。

 上手くすれば賠償の方は何とかなりそうだ。

 美佳と鈴木優は、警察官に事情を説明する。

しかし、流石に半感応性心霊レーダーなる胡散臭い装置に導かれたなんて言える筈も無い。

 警官は、美佳と鈴木優に人命救助の感謝状モノだと称賛したが、もし貰えるなら半感応性心霊レーダーの開発者にも送って欲しいと
思っていた。

 警察署という場所は、夜は意外と静かで当直の刑事や警察官は事務仕事をしている。

美佳と鈴木優は別室で待機。

 自殺未遂という案件から事情聴取的な部分は沙也加のみで警察官と行われる。

 沙也加の両親がタクシーで到着した。

 美佳と鈴木優は、深々と頭を下げられ娘の命を救ってくれた事への感謝をされる。

 その後に、警察官から美佳と鈴木優が聞いた内容では、沙也加が、なぜ踏切に入ったのかを問うと、病院で治療後に家に戻り部屋でスマホをみたら学校の裏サイトで沙也加バッシングや虐め予告が多く記載されていたそうだ。

 それと、やはり慰めてくれると信頼していた彼氏からの別れがトドメの一撃だった事を聞かされる。彼氏の件は、美佳と鈴木優では何も出来ない。

 警察官から「佐藤さんと鈴木さんは、高校時代は佐々山電鉄応援団で活躍していたそうだけど」と切り出してきた。

そして「交通安全教室をしたいのだが」と相談を持ち掛けてきた。

 そもそも、彼女の通う女子高校は進学校。学業に関係ない私物持ち込みに厳しい。

 いままで学校にスマホを持ち込み禁止だったのを、生徒会が何度も学校側と交渉して、ようやく持ち込みが出来るようになった経緯から、生徒間の沙也加を憎む心情は理解できる。

 学業に支障を及ぼさない、歩きスマホはしない、授業中の使用は厳禁などのルールを守る事で認可され、四月に解禁になったばかりだという。

 なのに、沙也加が今回の案件を起こしてしまった為、校長や教頭が学校へのスマホ持ち込み禁止を再検討する流れになってしまったようだ。

歩きスマホで電車を緊急停止させた挙句、無関係な乗客に怪我をさせた事案は間違いなく保護者会で問題になる。

同時に、学校側もマスコミ対策などで再発防止を宣言するには当然の対応だろう。

それは、全校生徒が一斉に沙也加をターゲットに、攻撃をしてくる地獄の日々を容易に想像させる最悪のシナリオだ。

 交通安全教室の提案は、沙也加の件での再発防止だけでなく、県内で多発する歩きスマホ事故の抑止も兼ねているという。

 美佳は「了解です。やってみましょう」と快諾した。

 佐々山電鉄の最終電車に間に合うという事で、一番近い駅まで歩く事にした。

 夜の道を歩きながら美佳は「日本のマスコミって鉄道事故への報道の認識が歪んでいるよな」と突然喋りだした。

 鈴木優は「何を突然言い出すの」

美佳の言い分は次の通りだった。

 マスコミが当然のように新聞記事やテレビニュースでアナウンサーが発言する「列車に轢かれる」「列車にはねられる」という慣例的な報道用語が見直されれば鉄道人身事故は減少するのではないかと美佳は主張する。

「マスコミ報道での鉄道事故。抑止力か」

 鈴木優も、言われてみればマスコミ関係者の立場からすれば先輩諸氏や研修で覚えた慣例的な報道用語なのだろうけど、コンプライアンスが重視される世の中で時代錯誤な言葉を使い続けている現状は面白いと感じて、美佳の主張に興味を持った。

 コンプライアンス的なとは、警察が現場検証、実況見分で偶発的な不幸な事故なのか、相手が故意に列車の運行妨害を起こす身勝手な理由での事故なのか、それを正式に発表する前に、回避不能な状況下で損害を被った鉄道企業に責任があるかの如く報道を行う事で、鉄道会社に信頼失墜、不利益を起こす報道姿勢には疑問がある。

 特に、SNSだと自殺での事故を、悲劇とか飛び込んだ側が可哀そうという美談化な見出しで閲覧や動画再生回数を増やす傾向がある。

 美佳は「マスコミが報道姿勢を変えれば鉄道事故が大きく減少するかもしれない」と言い放つと、鈴木優も真剣に美佳の意見に耳を傾けた。

警察や消防、鉄道会社や多くの利用者に迷惑を掛かる鉄道事故。遺族にも多額の賠償金を背負わせる。何よりも運転士からすれば絶対に止まれない速度。トラウマ。

 単に「列車に接触」とか「〇〇駅構内で人身事故」という報道で誰にでも充分に通用し伝わるのに、なぜ「列車にはねられ」とか「列車に轢かれて」という無駄に鉄道側に非があるような報道をするのかが解らない。報道の自由を語る前に、誰も日本語が間違っている事に改善を行わないのかも謎な話だ。

 鉄道事故報道を変えるだけでも事故未然防止の抑止力は期待できる。

 鈴木優も「歩きスマホも同じだね。報道の仕方で、逆に安心して歩きスマホが出来ない駅環境の鉄道会社側が悪いってなる」

 美佳は「実際さ。ホームドアがあれば事故は防げたって苦情は来るよ」と嘆いた。

「一部のルールやマナーを守れない人の為にホームドアって抗議の電話。田舎の潰れそうな会社に導入できる訳ないよ」

 美佳は、佐々電で苦情対応もしている。

 そういう誰にも言えない愚痴を聞いてあげるのも鈴木優の役割でもある。

 美佳は、溜まっていたものを吐き出すように喋り続けると急に立ち止まった。

 美佳は、ようやく鬱憤がはれたらしく。

「悪いな。優。厄介ごとに付き合わせて」

「いいよ」

「半感応式心霊レーダーが無ければ人身事故が起きていたと思うと怖いよ」

美佳は「違う。マジで八墓踏切ってレーダーが反応しただろ。あそこ居るよ」

「そういえば。沙也加ちゃんは生きていた訳だから。別の何かに反応した訳だね」

佐々電の線路に向かう道まで来ていた。

 あろうことか、八墓踏切に向かう道だと気が付く。

「うわっ、やっぱり引き寄せられている」