「長い夜には、お仕置きが必要でしょ?」

「はぁ!?」


 オレは統に向かって呆れた顔をする。秋の夜長に必要なものは、たぶん、いや絶対それじゃない。


「お仕置きってのは、悪いことをしたヤツに対して使う言葉であって、オレは身に覚えが無いし」

「……」

「そもそもオマエにだって他のヤツにだってお仕置きなんてされたくねぇ……ってかお仕置きはどこから来た!?」


 オレは横にいた統に毛布を投げつけると、するりとベッドから降りた。


「コウちゃん」

「うぎゃぁっ!!」


 しかし、上手く毛布をすり抜けた統の両手がオレの腰をつかみ、ズルズルとベッドに戻された。


「そんなにお仕置きの理由が必要なら……昼間に俺の服を着ていったから、とか、どう?」


 毛布ごと後ろから抱き締める統の腕の中で、オレは離せと暴れる。しかしそんなのお構いなしに、余裕そうな、いやむしろ楽しそうになっていく統の声。


「仕事上黒インナーしか着れないし、オレとオマエはサイズが同じだから、一緒に洗濯するとどっちのかわかんなくなるんだよ!」


 オレは統の腕をひっぺがそうと、身体に巻き付く腕をつかむ。


「えー、でも、においとか違わない?コウちゃんの、甘くていいにおいするし?」


 しかし統はオレの抵抗なんて物ともせず、しかもオレの頭のにおいを嗅ごうと鼻をくっつける始末。


 くそっ!服のサイズも身長もそんなに変わんないのに、どっからこんなパワーが出てくんだよっ!


「さっき洗ったばかりなのでオレの頭は無臭です!!」

「え~、こんなにいいにおいするのに~?」


 統はオレを抱きしめたまま、後頭部、首筋、肩を順番に嗅いでいく。リズム良くスンスンする鼻息がくすぐったい。


「うひゃぁっ!」


 オレは思わず声をあげた。
 くすぐったいのを我慢していたオレの首筋に、濡れたものが当たったからだ。


「み~つ~る~~っ!!!!」


 オレは真後ろの統を睨むため、頭突きをする勢いで首を捻る。ちなみに統は、それをヒョイとかわす。


「コウちゃんすごく甘いにおいするから、舐めたら美味しいのかなって」

「美味しくありません!!」

「え~」


 統は不満そうに、ぷぅと頬を膨らませる。


 チクショ、可愛いじゃないか……


 この、片頬だけ膨らませる不満げな顔がオレは好きだ。
 でも、オレは知っている。この可愛い顔をする時は………


「誘うなら普通に誘えぇぇぇぇぇ!!」

「ふふふ~」



 秋の夜は、まだまだ明けそうにない。