「……何したんですか、雲居さま」

日が暮れる頃に社へ帰ってきた誉と雲居。雲居に肩に担がれて青い顔で白目を剥く誉れを見るなり黎栄は顔を顰めた。

「さぁ? 身体見つからなくて落ち込んでるんじゃない?」
「雲居さんの……危険運転、いや危険飛行のせいだよ……」
「あはは。俺のせいだって」

妖と聞いて初めは慄いていた誉も、丸一日共に過ごせば雲居の人柄が分かってきてこうして軽口で返すこともできるようになった。
呆れたように息を吐いた黎栄。

「とにかく一日ご苦労様でした。牢に戻すので引渡してください」
「またあんな場所に閉じ込めとくの? どうせ逃げれないんだし、寝る時以外は自由にさせてやりなよ」
「雲居さまが責任を取ってくださるなら、好きになさってください。宮司の許可もご自分で取ってくださいね」

すぐに反対するかと思っていた黎栄があっさりと許したことに驚く。この男は天慶の腹心だと思っていたのだが。

「あはは、キミ相変わらず"面倒事には首突っ込まない主義"貫いてるねぇ。了解、責任は俺が持つよ」

さ、行こうか。と誉の肩に腕を回した雲居は機嫌よく歩き出した。

本殿の前を突っ切りながら改めて周りを見渡す。大きな神社だ。昔京都で観光した際に立ち寄った神社もこんな雰囲気だった。ある程度の知識は身体を探している間に雲居から教えてもらった。

妖の一族はひとつの一族にひとつの社を設け、そこの宮司が投手になる決まりらしい。つまりここの宮司と名乗った天慶は、ここの長という訳だ。

本殿横の一回り小さい建物にずんずんと入っていった雲居のあとを追いかける。中では色とりどりの袴を身につけた人達が各々に働いていた。雲居が中へ入ってくるなり慌てて立ち上がり深々と頭を下げた彼らに「いいよいいよ」と手で示す。

雲居さんって一体何者……?

「そこの君、天慶どこ?」

赤い袴を身につけた女性にそう声をかける。

「お二階にいらっしゃいます」
「そ」

女性は雲居よりも誉のことが気になるらしい。四方八方からも視線が刺さりいたたまれない。二階へ続く階段に足をかけた雲居を慌てて追いかけた。
どの部屋にいるのか見当はついていたけどらしく、いくつかある部屋のひとつの襖を勢いよく開けた雲居。スパァンと小気味好い音に驚いたのか、中にいた天慶が目を瞠って顔を上げた。

「雲居……お前、うちの社務所を潰す気か?」
「あはは、そんな相模坊(さがみぼう)の怒りを買うような事しないよ。おたくと戦になったら絶対ウチが負けるし」

深い息を吐いた天慶は頭を抱える。と、その時天慶と視線が絡んだ。天慶の眉間に皺がよる。思わず身を小さくして雲居の後ろに隠れた。

「随分と仲良しこよしになったらしいな」
「竹馬の友だよね〜」

「ね〜」と言い返せるほどの根性はない。天慶が苛立ったように髪をかきあげた。なぜだか理由は分からないけれど、天慶の苛立った目を見ると身体が竦んでしまう。

「そんな威嚇しないの。それより酒持ってきたから飲もうよ。いつも通り俺のために宴開いてくれるんでしょ?」

もう一度深いため息を吐いたあと、天慶はのっそりと立ち上がった。