今回も告る前に振られたの?いつもの事っしょ。明日(ほまれ)を励ます会するべ。
親しい友人三人とのグループトークに今日の放課後デートの惨敗っぷりを報告すると、励ましているのかいないのかよく分からない返事が返ってきた。何かとこじつけてカラオケに行きたがる三人はやっぱりすぐにカラオケを提案してきた。話題はすぐにどこの店へ行くかにシフトチェンジする。私としてはもう少し励ましの言葉が欲しかったのに、と少しいじけた気持ちで深い息を吐いた。

「誉〜? 暇ならお使い行ってきて欲しいんだけど」

リビングのソファーで寝転びながら、友人たちからのメッセージを読んでいるとキッチンで夕飯を作っていた母の典子にそう声をかけられた。

「えー、別に暇じゃないんだけどぉ」

ソファーの背もたれに顎を乗せてそう文句を言うと、手を拭いながら典子がリビングに入ってきた。

「ソファーでごろごろしながらスマホ見てる子のどこが暇じゃないんだか」

呆れたように息を吐いた典子はエコバッグとポイントカードを誉の前に置いて財布から千円札を引き抜く。

「私だって予定くらいいっぱいあるし!」

「へぇ? 彼氏もいない部活もしてない習い事も三日でやめたアンタにどんな用事があるんだか」

ぐうの音も出ず押し黙る。
ていうか彼氏の有無は今関係ないし!

「お母さんは別にいいのよ? 福神漬け食べるのアンタだけだし」
「え、今日の夕飯カレーなの!? カレーに福神漬けは必須! ノブとダイゴみたいな関係でしょ!」
「何訳わかんない事言ってんのよ。じゃあ買ってきて」

あとアレもなかったわねそうだはあれもないわ、と次々買い物リストを増やしていく典子に「げぇ」と顔を顰めた誉は首をかきながら重い腰を上げた。

5倍に増えた買い物リストにうんざりしながら靴を履き替えていると、丁度兄の(すぐる)が大学から帰ってきた。誉と目が合うなりにへらと頬を崩すと「誉、兄ちゃん帰ってきたよ〜ッ!」とまるで数年ぶりの感動の再会みたいな勢いで両腕を広げて迫ってくる。ひらりとそれを交わすと優は玄関の床に顔から倒れ込んだ。まぁそれくらいで心が折れるような柔な兄ではないのだけれど。

「誉どこ行くの?」
「お母さんにおつかい頼まれたから、スーパー行ってくる」
「こんな時間に? 危ないからお兄ちゃんと一緒に行こう! 車出してあげるから!」
「ヤダよ! お兄ちゃんの車乗ったら三時間は帰って来れないもん」

前に甘い誘惑に負けて車に乗った時「ちょっと寄り道してから帰ろう」と言われ、三時間コースのドライブに連れていかれたことがある。自分の足で行くか三時間拘束されるか、天秤にかけなくても答えは決まってる。

「行ってきまーす」

あ、誉!?ちょっと待って!と捨てられた子犬のような目をした兄を無視して外に出た。