右手が痺れる感覚に目が覚めた。いててと顔を顰めながら視線を向けると、紺色の布を握りしめている。白檀の匂いだ。なんじゃこれ、と引っ張りながら体を起こすと頭の奥がズキンと痛んだ。顔を顰めながら布を広げる。紺色の羽織だった。
ええ?とつぶやいた自分の息がやけに酒臭い。辿れるだけの記憶を辿ると、最後は誰かに差し出された飲み物を飲んだところで記憶が途絶えている。のどの奥が焼けるように熱くなって目の前がぐるんぐるん回って、その後の記憶はぷっつり途切れている。辺りを見回すとよく知っている地下牢だ。昨日と違うのは布団に寝かされている、という事くらいだろうか。地下牢へ続く階段を誰かが下りてくる足音がした。
「おっはよ~」
元気のいい挨拶が頭に響く。
「お、立派に二日酔いしてるね誉。傍にいた巫女助勤が青い顔して謝ってたよ」
現れた雲居によって自分の状況を把握した。どうやら彼女が差し出したのは酒で、自分はそれを飲んで目を回して倒れたらしい。
「さ、ゲロってる暇はないよ~。死ぬまであと二日しかないんだから」
「もうちょっと言い方ってもんが……ッうう」
鈍痛に悶えながら蹲った。
その日も身体が見つかる事はなく、肩を落として社へ戻ってきた。落とし物ってそう簡単に見つかるもんじゃないからさ、と励ましているのかいないのかよく分からない言葉を雲居から頂戴する。
「まぁあと一日あるし、最悪天慶がどうにかしてくれるんじゃない? ……っと噂をすれば」
拝殿へ続く参道に天慶の姿を見付ける。その周りには小さな子供たちが群がっていて、ぶら下がったりよじ登ったり好き放題にされていた。
「相変わらず面倒見いい奴だなぁ」
「……それ笑うところでした?」
「冗談じゃないって。天慶が大天狗に選ばれた最後の決め手も、多分その辺だと思うし」
天慶と雲居の事情を聞いてしまってから若干今日一日気まずい気持ちを抱えて雲居と過ごしてきたけれど、まさか本人が話題にしてくるとは思っていなくて思わずむせる。
「あ、やっぱり知ってたんだ。なんなら俺が天慶に何かするんじゃないかって噂も聞いてるでしょ」
「……キイテマセン」
「嘘が下手だねぇ」
雲居は目を細めて天慶を見つめる。
「目付きも口も態度も悪いのに、あの人が面倒見がいいなんて信じられないんですけど」
「今に分かるよ」
「なんで雲居さんが選ばれなかったんだろ」
ポロッと出た本音はあとから失言だったと気が付く。雲居は特段気にする素振りは見せずに、カラカラと笑う。
「そりゃ、あいつの方が相応しいからデショ」
「それだったらあの人と一緒に候補に上がってた雲居さんだって同じくらい相応しいってことじゃないですか」
目を瞬かせた雲居が振り向いた。
「はは、ありがとう。でも俺はホント、天慶みたいに優しくないよ。興味のある子にしか関わらないし、面倒くさくなったら投げ出すから」
うるせぇ耳元で叫ぶなよじ登るな、怒鳴る天慶などお構いなしに子供達は彼にじゃれつく。やっぱりあの男が雲居さんより優しいとは思えなかった。
ええ?とつぶやいた自分の息がやけに酒臭い。辿れるだけの記憶を辿ると、最後は誰かに差し出された飲み物を飲んだところで記憶が途絶えている。のどの奥が焼けるように熱くなって目の前がぐるんぐるん回って、その後の記憶はぷっつり途切れている。辺りを見回すとよく知っている地下牢だ。昨日と違うのは布団に寝かされている、という事くらいだろうか。地下牢へ続く階段を誰かが下りてくる足音がした。
「おっはよ~」
元気のいい挨拶が頭に響く。
「お、立派に二日酔いしてるね誉。傍にいた巫女助勤が青い顔して謝ってたよ」
現れた雲居によって自分の状況を把握した。どうやら彼女が差し出したのは酒で、自分はそれを飲んで目を回して倒れたらしい。
「さ、ゲロってる暇はないよ~。死ぬまであと二日しかないんだから」
「もうちょっと言い方ってもんが……ッうう」
鈍痛に悶えながら蹲った。
その日も身体が見つかる事はなく、肩を落として社へ戻ってきた。落とし物ってそう簡単に見つかるもんじゃないからさ、と励ましているのかいないのかよく分からない言葉を雲居から頂戴する。
「まぁあと一日あるし、最悪天慶がどうにかしてくれるんじゃない? ……っと噂をすれば」
拝殿へ続く参道に天慶の姿を見付ける。その周りには小さな子供たちが群がっていて、ぶら下がったりよじ登ったり好き放題にされていた。
「相変わらず面倒見いい奴だなぁ」
「……それ笑うところでした?」
「冗談じゃないって。天慶が大天狗に選ばれた最後の決め手も、多分その辺だと思うし」
天慶と雲居の事情を聞いてしまってから若干今日一日気まずい気持ちを抱えて雲居と過ごしてきたけれど、まさか本人が話題にしてくるとは思っていなくて思わずむせる。
「あ、やっぱり知ってたんだ。なんなら俺が天慶に何かするんじゃないかって噂も聞いてるでしょ」
「……キイテマセン」
「嘘が下手だねぇ」
雲居は目を細めて天慶を見つめる。
「目付きも口も態度も悪いのに、あの人が面倒見がいいなんて信じられないんですけど」
「今に分かるよ」
「なんで雲居さんが選ばれなかったんだろ」
ポロッと出た本音はあとから失言だったと気が付く。雲居は特段気にする素振りは見せずに、カラカラと笑う。
「そりゃ、あいつの方が相応しいからデショ」
「それだったらあの人と一緒に候補に上がってた雲居さんだって同じくらい相応しいってことじゃないですか」
目を瞬かせた雲居が振り向いた。
「はは、ありがとう。でも俺はホント、天慶みたいに優しくないよ。興味のある子にしか関わらないし、面倒くさくなったら投げ出すから」
うるせぇ耳元で叫ぶなよじ登るな、怒鳴る天慶などお構いなしに子供達は彼にじゃれつく。やっぱりあの男が雲居さんより優しいとは思えなかった。