美咲が泣き止むまでずっと、彼女のことを抱きしめていた恵子は、そっと料理に視線を落とす。
「さまれちゃったから、温め直そうか?」
「ううん、このまま食べる。けーこばあばの料理、さまれても美味しいし」
恵子は美咲から少し離れて、料理に手を伸ばす。すっかりと冷えてしまったので、温め直そうとしたが美咲はその手を止めた。
「……そうかい?」
「うん。あー、たくさん泣いちゃった! これはもう、呑むしかないね!」
グラスに入った日本酒を飲む美咲に、恵子は眉を下げて微笑む。先程まで座っていた場所に戻り、恵子もおちょこを手にしてぐっと飲み干す。喉を通るとカッと熱くなる。そして二人同時に「ふぅー」と息を吐く。
「このふきの煮物美味しいね。なにが入っているの?」
「いろんなものが入っているよ。今度、一緒に作ろうか?」
「あ、それも良いかも! 家だと、お母さんが手元を覗き込んで来てやりづらいんだよね」
泣いたことでスッキリしたのか、美咲はくすくすと笑いながら恵子との会話を楽しんだ。そのことに、恵子は安堵したように彼女を見る。
「美咲ちゃん、今日は泊ってく?」
「うーん、どうしようかな。私、もしかしてかなりやばい目になってる?」
小さくうなずく恵子に、美咲は「だよねぇ」と苦笑した。
あれだけ泣いたのだ。仕方ないことだろう。
「……このまま帰ったら、芽衣に心配かけちゃいそうだしなぁ……。うーんと……ちょっと待ってね」
バッグからスマートフォンを取り出して、電話をかける。すぐに電話が繋がり、「けーこばあばの家に泊まってもいい?」と尋ねる。電話の相手は恐らく、母親だろう。
「……うん、うん。わかった、じゃあね、芽衣のことお願いね」
電話を切って人差し指と親指で丸を作った。どうやら、許可を得たらしい。
「芽衣ちゃんは大丈夫そう?」
「うん、あの子お腹いっぱいになると、睡魔に抗えなくなっちゃうんだよね。だから、芽衣が目覚める前に帰るよ」
「そうかい。今度、芽衣ちゃんと一緒に泊まりにおいで。川の字で寝ましょ」
「あはは、それも良いかも!」
美咲と笑い合いながら、未来のことを語る。彼女は楽しそうにうなずきを返し、冷えた料理を食べながら日本酒を飲む。
すべて平らげて、美咲をお風呂に向かわせた。その間に布団の用意をした。幼い頃からたまに泊まりに来ていたので、美咲はこの家のことをよく知っている。お風呂からあがり、「けーこばあばもどうぞー」と声をかけてきた。
「美咲ちゃん、このお布団使ってね」
「わ、用意してくれたんだ! ありがとう」
「いえいえ。それじゃあ、私も入ってくるね」
とはいえ、お酒を飲んだあとだからシャワーだけで済ませた。さて、片付けをしようと思っていたら、どうやら美咲が片付けてくれたらしい。
「美咲ちゃん、ありがとうねぇ」
「どういたしまして! というか、こっちのほうがありがとう、だよ。それじゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ。ゆっくり休んで」
――翌朝、美咲の目元はすっかり腫れが引き、元気に帰っていった。いろいろスッキリした表情を浮かべていたので、「またおいで」と声をかけてから彼女を見送る。作った料理すべて、美咲が食べてくれたので、恵子としても嬉しかった。
小さくなっていく背中を見つめながら、ふっと微笑みを浮かべる。
彼女はきっと、また『母親』として気丈に振る舞うだろう。
「さて、今日はどんな一日になるかねぇ?」
晴天の空を見上げて、恵子が目元を細めながら言葉をつぶやく。
きっと、今の美咲の心も、こんなふうに澄んでいるだろうと思いながら、家の中に入った。
「さまれちゃったから、温め直そうか?」
「ううん、このまま食べる。けーこばあばの料理、さまれても美味しいし」
恵子は美咲から少し離れて、料理に手を伸ばす。すっかりと冷えてしまったので、温め直そうとしたが美咲はその手を止めた。
「……そうかい?」
「うん。あー、たくさん泣いちゃった! これはもう、呑むしかないね!」
グラスに入った日本酒を飲む美咲に、恵子は眉を下げて微笑む。先程まで座っていた場所に戻り、恵子もおちょこを手にしてぐっと飲み干す。喉を通るとカッと熱くなる。そして二人同時に「ふぅー」と息を吐く。
「このふきの煮物美味しいね。なにが入っているの?」
「いろんなものが入っているよ。今度、一緒に作ろうか?」
「あ、それも良いかも! 家だと、お母さんが手元を覗き込んで来てやりづらいんだよね」
泣いたことでスッキリしたのか、美咲はくすくすと笑いながら恵子との会話を楽しんだ。そのことに、恵子は安堵したように彼女を見る。
「美咲ちゃん、今日は泊ってく?」
「うーん、どうしようかな。私、もしかしてかなりやばい目になってる?」
小さくうなずく恵子に、美咲は「だよねぇ」と苦笑した。
あれだけ泣いたのだ。仕方ないことだろう。
「……このまま帰ったら、芽衣に心配かけちゃいそうだしなぁ……。うーんと……ちょっと待ってね」
バッグからスマートフォンを取り出して、電話をかける。すぐに電話が繋がり、「けーこばあばの家に泊まってもいい?」と尋ねる。電話の相手は恐らく、母親だろう。
「……うん、うん。わかった、じゃあね、芽衣のことお願いね」
電話を切って人差し指と親指で丸を作った。どうやら、許可を得たらしい。
「芽衣ちゃんは大丈夫そう?」
「うん、あの子お腹いっぱいになると、睡魔に抗えなくなっちゃうんだよね。だから、芽衣が目覚める前に帰るよ」
「そうかい。今度、芽衣ちゃんと一緒に泊まりにおいで。川の字で寝ましょ」
「あはは、それも良いかも!」
美咲と笑い合いながら、未来のことを語る。彼女は楽しそうにうなずきを返し、冷えた料理を食べながら日本酒を飲む。
すべて平らげて、美咲をお風呂に向かわせた。その間に布団の用意をした。幼い頃からたまに泊まりに来ていたので、美咲はこの家のことをよく知っている。お風呂からあがり、「けーこばあばもどうぞー」と声をかけてきた。
「美咲ちゃん、このお布団使ってね」
「わ、用意してくれたんだ! ありがとう」
「いえいえ。それじゃあ、私も入ってくるね」
とはいえ、お酒を飲んだあとだからシャワーだけで済ませた。さて、片付けをしようと思っていたら、どうやら美咲が片付けてくれたらしい。
「美咲ちゃん、ありがとうねぇ」
「どういたしまして! というか、こっちのほうがありがとう、だよ。それじゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ。ゆっくり休んで」
――翌朝、美咲の目元はすっかり腫れが引き、元気に帰っていった。いろいろスッキリした表情を浮かべていたので、「またおいで」と声をかけてから彼女を見送る。作った料理すべて、美咲が食べてくれたので、恵子としても嬉しかった。
小さくなっていく背中を見つめながら、ふっと微笑みを浮かべる。
彼女はきっと、また『母親』として気丈に振る舞うだろう。
「さて、今日はどんな一日になるかねぇ?」
晴天の空を見上げて、恵子が目元を細めながら言葉をつぶやく。
きっと、今の美咲の心も、こんなふうに澄んでいるだろうと思いながら、家の中に入った。