「さぁさ、たらふくおあげんせ」

 食卓に並ぶたくさんの春を伝える――山菜料理。

 ほかほかの白いご飯に、納豆汁。ばっけみそにふきのとうやタラの芽の天ぷら、うどの酢漬け。さらにふきの煮物。

「こんなにたくさん……本当にいいんですか?」
「もちろんよぉ。いつもひとりで食べていたから、一緒に食べてくれると嬉しいわぁ」

 ごくり、と喉を鳴らして、彼女は両手を合わせた。

「――いただきます!」

 箸を持ち、納豆汁から口をつける姿を見て、恵子(けいこ)はじっと彼女を見つめる。

 美咲(みさき)はもぐもぐと咀嚼して、こくりと飲み込むと「おいしー!」と目をきらきらと輝かせた。その言葉を聞いて、恵子はほっと息を吐く。

「良かったぁ」
「けーこばあばの料理って、食べるとなんだかほっとするんだよねぇ。第二の実家的な?」

 くすくすと笑いながら美咲はばっけみそを小さなスプーンで掬い、ほかほかの白いご飯に乗せてぱくりと食べた。

「んー、このしょっぱさと苦味の塩梅(あんばい)、さいっこう!」

 美味しそうに食べてくれる美咲を見て、恵子の心の中が温かくなる。子どもの頃から、美味しそうに食べる子だとは思っていたけれど……大人になってからも変わっていないようだ。

「あ、そうだ。日本酒を冷やしていたんだけど、どう?」
「え、いいの? 私、チューハイやビール買ってきたよ。一緒に()もうと思って」

 あのビニール袋の中身はお酒だったようだ。恵子は立ち上がり、冷やしていた日本酒とおちょこを取り出し――ふと美咲に視線を向け、一瞬悩む。一度日本酒をテーブルに置いてから、大きめのグラスを用意する。

「美咲ちゃん、これでいい?」
「ありがとう、けーこばあば」

 恵子は日本酒の栓を開け、とくとくとグラスの中に注ぐ。たっぷりと。美咲は恵子から日本酒を受け取った。

 美咲も恵子に日本酒を注ぐ。おちょこから溢れないようにそうっと傾け、「ありがとう」と恵子が微笑むと、美咲も笑みを返す。

 日本酒を置いて、栓をしてから美咲はグラスを持ち上げ、恵子もおちょこを持ち上げた。

「それじゃあ、春の恵みに乾杯!」
「乾杯」

 こつんと軽く合わせてから、日本酒をこくりと一口飲む。恵子が思っていたよりも、まろやかな口当たりの日本酒で、目を丸くする。

「……美味しい」
「ほーんと! これ、甘口かな? 辛口ばっかり買っていたけど、こういうのもいいね」

 美咲はグラスを置くと、再び箸を取り今度はふきのとうの天ぷらを食べた。そこからすかさず日本酒を飲む。そしてふるふると肩を震わせた。

「美咲ちゃん?」
「合うー! やっぱり山菜と日本酒の相性は抜群(ばつぐん)ね!」

 ぱっと顔を上げてそう断言する美咲に、恵子は箸を置いて彼女のことを心配そうに眺める。

「……美咲ちゃん」
「なぁに、けーこばあば?」
「無理、していないかい?」

 恵子の問いに、美咲の動きがぴたりと止まった。