「くるみだれってなぁに?」
「ちょっと待っててね。こないだ作ったのがあるから」
「けーこばあば、市販の買わないの?」
「私、甘いのが好きでねぇ。自分で作ったほうが甘くできるのよ」

 以前、年末に売られているくるみだれを買ってみたが、恵子(けいこ)にはもう少し甘いほうが好みだった。

 それになにより、冷蔵庫や冷凍庫にあるくるみを消費したかった。恵子は冷蔵庫からくるみだれの入ったタッパーを取り出し、芽衣(めい)に見せる。

「これがくるみだれ?」
「そうよぉ。これをおもちにかけて食べるの。これも郷土料理のひとつね。地元の味」
「地元の味……たまーに食べたくなるんだよねぇ」
「子どもの頃に食べていたものはね、大人になってから食べたくなるわよねぇ」

 くすくすと笑いながらくるみだれをテーブルに置く。それを見ていた美咲(みさき)が、首を傾げた。

「そういえば私、味は知っているけれど作り方は知らないや」
「簡単よ。フライパンで軽く炒ったくるみを、すり鉢に入れてすりこぎで粉々にするの。今の時代ならブレンダー? というもので簡単に粉砕できそうねぇ」

 恵子の家にブレンダーはないので、すりこぎで時間をかけて細かくしていった。それもそれで達成感を味わえる。

「粉々になったら、砂糖を入れて、水を入れて……最後に醤油をちょっと回し入れてよーくかき混ぜて終わり」
「……もしかして、全部目分量?」
「当たり。好みの甘さになるまで味見を繰り返していくと良いわ。食べていく?」
「たべるー!」

 芽衣がぱぁっと明るい表情を浮かべて、手を上げる。その姿がとても愛らしくて、恵子と美咲は顔を見合わせて微笑み合った。

「それじゃあ、おもちを焼いてくるね」
「なんかごめんね、いつも」
「なーに言ってるの。好きでやっていることなんだから、気にしないで」

 美咲に向けてひらりと手を振る恵子。オーブントースターでもちを焼き、皿に乗せる。そしてスプーンも用意して、好きなだけくるみだれをかけてもらう。

「さぁさ、たらふくおあげんせ」
「いただきます!」

 美咲と芽衣の声が重なる。

 たっぷりとくるみだれをかけて、芽衣がぱくりともちを食べる。びよーんと伸びるもちを見て、楽しそうに肩を震わせ、もぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲み込む。

「こおばしい!」
(こう)ばしい、でしょ。一回炒ってるからかな? 風味がいいね。そして市販のよりも甘い!」
「このくらいの甘さが好きなのよ。……砂糖の量は、年末年始は気にしないことにしているわ」

 濃厚なくるみだれでもちを食べる三人。

 今年はどんな年にしたいかをいろいろと話し、美咲と芽衣が帰る前にふたりにお年玉をあげた。美咲は「私は良いよっ」と慌てていたが、恵子が押し切った。

 そんな新年の始まり。