「新年あけましておめでとうございます」
「おめでとう、ございますっ!」

 新年のあいさつにわざわざ来てくれた美咲(みさき)芽衣(めい)に、恵子(けいこ)はぱちくりと目を(またた)かせた。

 それからふっと破顔し、中に招き入れる。

「ちょうど良かった。美咲ちゃん、芽衣ちゃん、おもち好き?」
「大好き!」
「好きです。……けーこばあば、たくさんもらったの?」

 恵子は眉を下げて微笑み、こくりとうなずいた。

 毎年年末になると子どもたちが『餅つき大会だ!』と(うす)(きね)でもちをつく。それも大量に。もちろん恵子のところにもくる。

「楽しかったみたいで、大量よ」
「それはすごい……」

 熊谷(くまがい)家にもお裾分けしたが、七十代のひとり暮らし、もちはなかなか減らずに困っていたところに現れた母娘(おやこ)に、恵子は救世主! とばかりに目を輝かせた。

「おいしいんだけど、おいしいんだけどね……」
「もらったおもち、うちは正月にぺろっと食べちゃったよ」
「おいしかった! きなことねーバター醤油とねー!」

 どんな味付けで食べたかを芽衣はぶんぶんと手を振って話す。

 美咲に、「手を振り回さないの!」と注意されて、不満そうに唇を尖らせるのを見て、ぷっと噴き出した恵子に、美咲と芽衣は顔を見合わせた。

「……これはまた、たんまりと」
「でしょ? たくさんあるから、持っていってくれない?」
「いいの? ありがとう!」

 恵子は子どもたちからもらったもちを見せる。芽衣は「たくさん!」と大きな声を上げ、美咲はあんぐりと口を開ける。予想以上の多さだったのだろう。

「……こんなにいっぱい……」
「たくさん持っていってくれるとありがたいわぁ」
「冷凍庫どれくらい空いていたっけ。ちょっと待っててね」

 美咲はスマートフォンを取り出して、電話をかけた。

 相手はおそらく美穂だろう。少し声が漏れ聞こえている。

 冷凍庫の中身を確認しているのだと思い、恵子はビニール袋を準備する。芽衣は「おもちー」と楽しそうにツンツンと触っていた。

「えっと、じゃあこのくらいはもらっていくね」

 電話を終えて美咲がビニール袋にもちを入れていく。ひょいひょいと。三分の二ほど持っていってくれるようで、恵子は安堵の息を吐く。

「助かるわぁ。私ひとりだとなかなか減らなくてね」
「臼と杵でついたおもちはレアだよー。今だとホームベーカリーでももちがつけるらしいけど、うちはないからさ。芽衣もおもち好きだし、いろいろアレンジして楽しむよ」
「ありがとう。ついでにうちでおもち食べていかない? くるみだれあるよ」
「くるみだれ?」
「あれ、芽衣ちゃんは知らない?」

 美咲に視線を向ける恵子。彼女は小さくうなずいた。