栗まんじゅうを食べたあとに、だんずに手を伸ばす。小さくちぎって、砂糖醤油につけて食べるのが恵子のお気に入りだ。

「おいしい!」
「本当? 良かったぁ」

 芽衣が目を見開いた。砂糖醤油につけて食べてから、マヨ醤油につけて食べるとぱぁっと表情を明るくする。どうやら、美咲の言う通り、マヨ醤油のほうが好みらしい。

「これ、冷凍したらどうやって食べるの?」
「レンジでチンして、オーブントースターで軽く焼くのよ。そうね、味噌を塗って焼いても美味しいわ」
「味噌? ああ、なるほど、串もちの串なしだ」
「そうそう。あれはくるみ味噌だけど、普通の味噌でも美味しいのよ。味噌に砂糖を混ぜて表面に塗って焼くから、焦げに注意しないといけないけど」

 地元の串もちは、小麦のもちにくるみ味噌を塗って炭火で焼いたものだ。

 田楽豆腐も一緒に売られている場合が多い。田楽豆腐は焼き豆腐ににんにく味噌を塗って焼くので、串もちとは味が違う。

 その他にも、そばもちというものもあり、これは串もちと同じような形でそば粉を使い作り、甘味噌を塗っている。

「……こうして考えてみると、地元の郷土料理って味噌を使うのが多いわね……?」
「ひゅうずも中身はくるみ味噌だしね。黒砂糖も入っているんだっけ?」
「そうそう。だから味噌と一言で言っても、いろんな味があるのよ」
「おいしいの?」
「芽衣ちゃんなら、美味しく食べられるかも」

 すべてに言えることだが、好みがあるだろうから、味噌が好きな人は一度試してみてほしい。

「東京だと田楽は豆腐じゃなくて、こんにゃくだったからなぁ」
「うちの子たちもそう言っていたわ。あと、お祭りのときにアユの塩焼きが売られてないとも」
「……地元から離れて知るよねぇ……」

 しみじみと話しているうちに、芽衣はぺろっとだんずを食べ終えたらしい。

「美咲ちゃん、だんず持っていってくれない? 私ひとりだと、何ヶ月もかかっちゃう」
「え、いいの? やった、ありがとう、けーこばあば」
  ぱぁっと明るい表情を浮かべる美咲に、恵子は柔らかく目元を細めた。

「元気になってきたねぇ」
「……? 元気だよ?」
「うん。元気が一番さね」

 美咲と話していると、ところどころまだ愛する人を失った傷が残っていると感じる。突然の別れだったのから、仕方ないだろう。

 ――でも、そんな彼女がこうして芽衣のためにがんばり、笑顔でいてくれることで、恵子は安堵した。

「じゃあ、これらを包んでくるわね」

 恵子は立ち上がり、自分が食べる分を除いた栗まんじゅうとだんずをフードパックに入れ始める。

(美穂ちゃんも結構好きなのよね、たらふくおあげんせ)

 心の中でそうつぶやきながら、ビニール袋に両方入れて美咲の前に置いた。

「ありがとう、けーこばあば。片付け手伝うね」
「芽衣も!」
「助かるわぁ」

 三人で仲良く片付けをすると、あっという間に片付く。

 熊谷家に戻るふたりを見送って、恵子はにこにこと微笑んでいた。