ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴る音が耳に届き、恵子(けいこ)は立ち上がる。

「はいはーい。いらっしゃい、美咲(みさき)ちゃん、芽衣(めい)ちゃん」

 玄関の扉を開けて、ふたりを招き入れると美咲と芽衣は「お邪魔します」と一言挨拶をしてから中に入った。

 スーパーで買ってきたものを恵子に見せる美咲。

「これで良かった?」
「重かったでしょう? ありがとうねぇ」
「なんのなんの、栗まんじゅうのためなら!」

 にやりと口角を上げる美咲に、くすくすと笑って頼んで買ってきてもらったものを受け取り、ふたりに手洗いうがいを勧める。

 ふたりとも素直に洗面台へ向かい、恵子は中身を確認すると気合いを入れるようにうなずいてから、台所へ足を進めた。

 三人ともエプロンと三角巾を身につけ、まんじゅう作りをする準備は万全だ。

「では、栗まんじゅうを作ります」
「はい」
「はーい!」

 美咲が買ってきた五キロの小麦粉を使い、栗まんじゅうを作る。

 やかんにたっぷりとお湯は用意しているので、まずはこの前の山栗を茹でで中身をくり抜いたものを用意し、丸めることから始めた。

 栗をくり抜くときはスプーンを使うので、粉のような栗もあるので、全部をくっつけるイメージで丸めていく。

 それからまんじゅうの皮作りだ。

 大きめの器に小麦粉と砂糖、お湯を入れて混ぜていく。なんせ五キロもあるので、なかなかの重労働だ。

 お湯を使うのは、皮を柔らかく仕上げるためだ。

 水を使えば皮は硬くなる。お湯を使うと表面がぬらぬらするといって、硬い皮を好む人もいるが、これも好みだろう。

「……なんかすごいね」
「あっはっは。量が量だべ?」
「うん、量もすごい。五キロの小麦粉なんであんなに売れるんだろ、って思っていたけど、こういうことだったのね……」
「美穂ちゃんは作らんの?」
「見たことない」
「今は市販の彼岸まんじゅうもたくさんあるからねぇ」

 彼岸時期になると並ぶ彼岸まんじゅうを思い浮かべながら、恵子はくすくすと笑う。作りたい人が作ればいいのだ、彼岸まんじゅうは。

「今年も無事にあげもすことができそうね」
「あげもす?」

 芽衣が不思議そうに首を傾げる。どうやら知らない方言だったらしい。

「ご先祖さまにお供えするのよ。神さまにお供えするときも使うわ」
「おそなえが、あげもすっていうの?」
「そうよぉ」

 まんじゅうの皮を捏ねながら、芽衣に教えると芽衣は「あげもす」と口の中で繰り返す。

「おまんじゅう、お父さんにもあげもす?」
「あれまぁ」
「芽衣はどうしたい?」
「えっとねぇ……」