日中はまだ暑い。この温度差で風邪をひく人も多い時期だ。季節の変わり目は本当に、風邪をひきやすくなってしまう。

 恵子(けいこ)はいつも散歩をしたり、手洗いうがいをきちんとしたり、食生活にも気をつけている。だが、それでもひくときはひくので、風邪は手強い相手だ。

「けーこばあば、たくさん採れた?」
「そこそこね」
「けーこばぁばも上手ー!」

 栗は自然と落ちてくる。落ちているイガは茶色。それは栗が熟した証拠。

 イガが割れているところを靴底でくいっと広げ、中の栗を拾う。素手よりはトングや火箸のほうが安全だが……恵子たちは素手で拾っていた。

 イガはチクチクとするが、こうやって町の子どもたちは自然と触れ、どうすれば良いのかを学んでいく。

「いっぱいー!」
「……やっぱり栗まんじゅうかしらねぇ」
「栗まんじゅう?」
「あ、いいなー。けーこばあばの栗まんじゅう、食べたい!」

 美咲(みさき)がぱぁっと表情を明るくさせた。たくさん採れた山栗に視線を落とし、これは気合を入れて作らなければと微笑む。

 その姿を、芽衣(めい)が不思議そうに眺めていた。

「秋彼岸のあいだに作ろうかね」
「あー……お盆過ぎたらすぐお彼岸なんだよねぇ。私も手伝おうか? けーこばぁば、たくさん作るでしょ?」
「手伝ってくれると助かるわぁ。でも、美咲ちゃん忙しいんじゃない?」
「うーん、でも、芽衣も一緒にやりたいかなって」

 栗まんじゅうと聞いて興味を持ったのか、美咲の言葉に芽衣がこくこくと何度もうなずいた。

「……そっか。なら、休みの日に来てくれる?」
「はーい」

 楽しそうに微笑む美咲に、恵子も微笑む。

 ふたりが来る前に、この大量の山栗を茹でて中身をスプーンでくり抜かなければ……と考えて、恵子は肩をすくめた。

「それじゃあ、たくさん採ったし、そろそろ帰ろうか。暑くなって来たし」
「そうねぇ、残暑厳しいわ」
「あついー!」

 美咲の車で来ていたので、そこまで戻る。トランクにはクーラーボックスがあり、蓋を開けてスポーツドリンクを取り出して、芽衣に渡す。

「一気に飲むんじゃなくて、ゆっくり飲むんだよ。はい、けーこばあばも」
「ありがとう。ちょうど喉乾いていたのよ」

 美咲からスポーツドリンクを受け取り、嬉々として身体に水分を補給する。

 冷たい飲み物が身体の中に広がる感覚に、恵子は目元を細めた。

「それじゃあ、家に帰りますか」
「美咲ちゃん、誘ってくれてありがとうねぇ」
「こっちこそ! 来てくれて良かったよ。芽衣も楽しかったよねぇ?」
「うん! 栗いっぱい拾ったよ!」

 芽衣は自分が拾った分を見せてくれた。誇らしげに胸を張る姿を見て、ぱちぱちと拍手を送る。

「でもイガイガちょっと痛かった」
「そうやって学んでいくのよ」

 自然との付き合い方を。