「あれまぁ、こんなにもらっていいのかい?」
「良いのよぉ。いつも美咲(みさき)たちがお世話になってるから。それに……今年は豊作みたいだし」

 眉を下げて微笑むのは、美咲の母である熊谷(くまがい)美穂(みほ)だ。美穂は夫である(じゅん)が山から()ってきた松茸をたんまりと持ってきた。

 それに戸惑ったように恵子(けいこ)が美穂を見る。美穂はひらひらと手を振りながら、松茸に視線を落とす。

「ありがたくもらうわ。松茸ご飯、今年も食べられるの嬉しい」
「こればかりはねぇ。でもあんまり採れると……冷凍庫が圧迫されるのよね……」
「ああ、それは問題ね……」

 頬に手を添えて遠くを見る美穂に、納得したようにうなずく恵子。

「美味しいんだけど、余るとねぇ」
「贅沢な話なんだろうけどねぇ……」

 それでも大量に採れて、毎日松茸料理が並べば、味に飽きてしまう。そのため、食べきれない松茸は冷凍することになる。

「舞茸も採れたらお裾分けするね」
芽衣(めい)ちゃんの好物でしょ? 良いの?」
「良いのよ。ずっと食べていたら……ね?」

 ふふ、と笑い合う美穂と恵子。

「それじゃ、いただいたから早速松茸ご飯作るわ」
「松茸ご飯も冷凍できるしね」
「冷凍庫の中身が不安になるわねぇ」
「彼岸も来るから、まんじゅうこしらえないといけないし」
「そうさねぇ。秋は美味しいものがいっぱいで困っちゃうわぁ」

 食欲の秋とはよく言ったものだ、と恵子は肩をすくめた。

「それじゃあ、また」
「はぁい。たくさんありがとうねぇ」

 松茸を置いて去っていく美穂を見送り、恵子は松茸の入った袋に顔を近付くてすぅっと大きく吸う。――毎年、この匂いを()ぐと秋だなぁと感じる。

「――さぁて、松茸ご飯の準備しなくちゃね」

 採れたての松茸を持ってきてくれたようで、土がついている。その土をきれいに拭き取り、ボウルと包丁を用意して虫がいないかを確認していく。

 自然のものだ。虫がいてもおかしくない。

 恵子はせっせと包丁で剥いで確認し、裂いた松茸をボウルに入れていく。

「……本当はあんまりやっちゃダメなんだけど……量が多いとねぇ……」

 ぽつりとつぶやいて、裂いた松茸のボウルに水を入れる。

 本来なら松茸の香りが薄れてしまうので、水に浸けることはしないほうが良い。

 ――が、量が量だ。

「水に浸けておけば楽なのよねぇ……虫……」

 水に浸けておけば勝手に虫が出てくる。一本や二本なら水に浸けなくてもいいだろう。

「自然の恵みに感謝して……大量に松茸ご飯作って、おにぎりして冷凍しちゃいましょう」

 めんつゆを使えば簡単だ。お米も好きなだけ。あればほんの少しもち米を入れるのもお勧めだ。

「ホイル焼きやバター醤油も美味しいのよね。……まぁ、きのこ全般に言えることかしら」

 松茸のしゃぐしゃぐとした食感や、舞茸のシャキッとした食感を思い出し、恵子はふふっと微笑みを浮かべる。

「ホイル焼きには醤油をかけて食べるのが美味しいのよね。秋って美味しいものが多いわぁ」