「......」
突然二人きりとなった部屋には静寂が訪れていた。
「......兄上はわたくしのことがお嫌いなのでしょう?」
「は?」
(何故そんなことを聞くのだ?)
戸惑っている神楽を置いて、文はぽつぽつと話出した。
「わたくし、どうやら兄上のお荷物のようです。わたくしは領主一族の中でもまじないが弱いから、知らず知らずのうちに負担になっていたのでしょうね......」
「何でこうなっているのかよく分からないが、文のことは荷物などではない。誰かに言われたのか?文が俺の荷物だって」
「言われていませんけど、そうでしょう⁉だって、わたくしにはあのような......義姉上に向けられるような顔を見たことがありませんもの......。わたくしに向けられるのは興味なんてないただの冷たい視線ですから......」
必死にこぼさないように耐えているが、瞳には涙が溜まっていた。
(俺は文をこんなになるまで放置していたんだな......)
詩織の言う通りだ。
兄妹だからって伝わらないこともある。
そんなことさえ分かっていなかった。
「文が頑張っていることは知っている」
「え......どうして、知っているのですか?わたくし、一度も言ったことないですよ?」
文が見ると神楽はいつも忙しそうな後ろ姿だった。
だから、伝えたことなかった。
褒められたいけど、忙しい兄の時間を奪いたくなかったから。
「文がたくさんの知識を深めているのも、先生からお免状をとっくに貰っていることも知っている。......文、よく頑張ったな」
顔は一切変わらないが、声は慈愛に満ちていた。
文のこれまでの努力がようやく報われた気がした。
「......正直、俺は文に恨まれていると思っていた。俺のせいで文が領主となる道が途絶えたからな」
一般的に領主となるのは嫡男だが、ここは違う。
領主の子ども誰もが領主となる可能性を持っているので、下の子でも領主となることができる。
実際、末の姫であった女性が領主となった事例も存在する。
しかし、神楽が他の者と一線を画す力を持って生まれてしまった。
そのため、文を含めた後から生まれてきた者達の可能性を無にしてしまった。
「......そんなことないですよ。わたくしは兄上を恨んだことなど一度もございませんから」
「そうか」
再び訪れる静寂は話会う前と違って、空気が明るかった。
「義姉上と双葉にお礼をしなければいけませんね。わたくしが意見を言えたのはあの姉妹のおかげですから」
「そうだな。何が喜ぶのだろうな?」
(武器を渡すのが一番喜びそうだが、女子に武器はな.........)
詩織に何を与えようか悩んでいると
「兄上、恋する乙女は殿方からの物を頂くだけで嬉しいのですよ」
文から助言が来た。
だが、詩織は神楽がこれまであって来た女性と全く違った。
それに神楽が女性に物を渡すこと自体初めてだった。
「文、詩織はそなたが思っているような者ではないぞ。かなり変わっている」
「え?ですが、義姉上は双葉の姉なのでしょう?香取家なら書物とか喜びそうな気がしますけど」
「妹の双葉は喜ぶだろうが、詩織は絶対に喜ばない。なんせ、勉強が嫌いなのだからな」
文の目が大きく見開いた。
それはそうだろう。
文官や側仕えの家出身の女性が勉強嫌いだなんて誰が思うのだろうか?
「そうなのですか......。なら、わたくしはあれを渡しましょう。兄上は決まりましたか?」
「分からないから、詩織と一緒に見ようと思う」
「良い殿方というのは姫君が欲しいものを予想して渡すものですよ、兄上」
「もう俺には詩織がいるからな」
(文とこんな会話をするとはな......)
先程までは全く話さずぎこちなかった関係が一瞬で変わった。
こんな日が来るなんて夢にも思っていたなかった。
それもこれも詩織が来てくれたおかげ。
どうしようもないほど知識もなくて、教養もなくて、常識もないけど、自分を変えてくれた人が詩織だと思うとまんざらでもなかった。
突然二人きりとなった部屋には静寂が訪れていた。
「......兄上はわたくしのことがお嫌いなのでしょう?」
「は?」
(何故そんなことを聞くのだ?)
戸惑っている神楽を置いて、文はぽつぽつと話出した。
「わたくし、どうやら兄上のお荷物のようです。わたくしは領主一族の中でもまじないが弱いから、知らず知らずのうちに負担になっていたのでしょうね......」
「何でこうなっているのかよく分からないが、文のことは荷物などではない。誰かに言われたのか?文が俺の荷物だって」
「言われていませんけど、そうでしょう⁉だって、わたくしにはあのような......義姉上に向けられるような顔を見たことがありませんもの......。わたくしに向けられるのは興味なんてないただの冷たい視線ですから......」
必死にこぼさないように耐えているが、瞳には涙が溜まっていた。
(俺は文をこんなになるまで放置していたんだな......)
詩織の言う通りだ。
兄妹だからって伝わらないこともある。
そんなことさえ分かっていなかった。
「文が頑張っていることは知っている」
「え......どうして、知っているのですか?わたくし、一度も言ったことないですよ?」
文が見ると神楽はいつも忙しそうな後ろ姿だった。
だから、伝えたことなかった。
褒められたいけど、忙しい兄の時間を奪いたくなかったから。
「文がたくさんの知識を深めているのも、先生からお免状をとっくに貰っていることも知っている。......文、よく頑張ったな」
顔は一切変わらないが、声は慈愛に満ちていた。
文のこれまでの努力がようやく報われた気がした。
「......正直、俺は文に恨まれていると思っていた。俺のせいで文が領主となる道が途絶えたからな」
一般的に領主となるのは嫡男だが、ここは違う。
領主の子ども誰もが領主となる可能性を持っているので、下の子でも領主となることができる。
実際、末の姫であった女性が領主となった事例も存在する。
しかし、神楽が他の者と一線を画す力を持って生まれてしまった。
そのため、文を含めた後から生まれてきた者達の可能性を無にしてしまった。
「......そんなことないですよ。わたくしは兄上を恨んだことなど一度もございませんから」
「そうか」
再び訪れる静寂は話会う前と違って、空気が明るかった。
「義姉上と双葉にお礼をしなければいけませんね。わたくしが意見を言えたのはあの姉妹のおかげですから」
「そうだな。何が喜ぶのだろうな?」
(武器を渡すのが一番喜びそうだが、女子に武器はな.........)
詩織に何を与えようか悩んでいると
「兄上、恋する乙女は殿方からの物を頂くだけで嬉しいのですよ」
文から助言が来た。
だが、詩織は神楽がこれまであって来た女性と全く違った。
それに神楽が女性に物を渡すこと自体初めてだった。
「文、詩織はそなたが思っているような者ではないぞ。かなり変わっている」
「え?ですが、義姉上は双葉の姉なのでしょう?香取家なら書物とか喜びそうな気がしますけど」
「妹の双葉は喜ぶだろうが、詩織は絶対に喜ばない。なんせ、勉強が嫌いなのだからな」
文の目が大きく見開いた。
それはそうだろう。
文官や側仕えの家出身の女性が勉強嫌いだなんて誰が思うのだろうか?
「そうなのですか......。なら、わたくしはあれを渡しましょう。兄上は決まりましたか?」
「分からないから、詩織と一緒に見ようと思う」
「良い殿方というのは姫君が欲しいものを予想して渡すものですよ、兄上」
「もう俺には詩織がいるからな」
(文とこんな会話をするとはな......)
先程までは全く話さずぎこちなかった関係が一瞬で変わった。
こんな日が来るなんて夢にも思っていたなかった。
それもこれも詩織が来てくれたおかげ。
どうしようもないほど知識もなくて、教養もなくて、常識もないけど、自分を変えてくれた人が詩織だと思うとまんざらでもなかった。