手作りの装飾や、丹精込めて培われた花々で彩られた花壇が、広場を取り囲むように配置され、華美を添えている。三つの民は、自らの矜持をその身に纏い、互いに笑顔を交わしていた。
「――グウィ、お願いね」
メリーが声を掛けると、小さく一声鳴き、グウィを率先にチャソタパスたちは一斉に駆け出した。彼らの足が広場に色彩を添えるたび、鮮麗な足跡が次々と浮かび上がる。"お"という文字が描かれと、続いて、"誕""生""日"と、一字一字が浮かび出る。彼らはそのまま駆け抜け、文字を完成させていく。
"お誕生日おめでとう!ペオ!"
文字が完成すると、大きな拍手と歓声が送られ、チャソタパスたちは応えるように、歓喜の表情を浮かべて小さな尾を振った。
「うわぁぁぁ!! すごい、すごいよ!」
「――ペオ、まだ気抜いてられないからね! まだまだ続くよー!」
ラリスの掛け声が高らかに響くと、花冠を咥えたチャソタパスたちがペオの前に進み出た。チャソタパスの口からサイデンフィルに花冠が託されると、彼らは優雅に舞いながらペオの頭上に漂う風に乗って飛翔した。
淡緑の花冠がペオの頭頂部にそっと降り立ち、彼の髪は瞬く間に柔和な緑色に染まり始める。色彩は漸次広がり、瑞々しい緑が髪全体を包み込んでいく。次に、淡白の花冠によって、頭頂部から徐々に白へと変容を遂げる。
最後に、淡青の花冠が、蒼穹を映したかの如く、ペオの髪全体が見事な階調で彩られた。
こうして、ペオの髪は美しい色合いに染め上げられた。緑は土の、白は空の、青は海の民の象徴だ。
「――みんな、どうしたの??」
「ほら、ペオ鏡見て!――はい」
「――ぼくの、髪が!?!?!」
---
「それでは、皆いいかしら?」
皆が一斉に席を立ち、乾杯の発声を担うエムスタに視線を注いだ。
「ではカウントダウン――3・2・1!!」
「「「「「ペオ、お誕生日おめでとう!!!!!」」」」」
「ありがとうー!!!」
「皆さま、グラスを掲げてー!」
掛け声に呼応し、皆がグラスを高々と掲げる。
「「「「「乾杯!!!!!」」」」」
グラスが軽やかに触れ合い、澄んだ音色を奏でた。
「みんな、ありが――うわぁぁぁ!!!」
ペオが感謝の言葉を口にしようとした刹那、スコットリスたちが水面に躍り出て、大きな飛沫を巻き上げた。彼らの巨大な尾鰭が水を叩き、まるで天空へ向けて水の花火を放つかの如く、無数の水滴が燦然と輝きながら飛び散った。太陽の光が水滴に反射し、虹色の輝きを放つ。
空中に放たれた水飛沫が陽光を浴びて煌めくと、見事な虹が架かり、空と海が一体となった。鮮やかな虹のアーチが祝祭の舞台をさらに彩り、皆の目を奪い続けた。
「――よしっ、最後の仕上げよ!」
ラリス率いる空の民が再び風を起こし、サイデンフィルたちが舞い上がる。空に花吹雪を撒き散らす壮麗な演出が幕を開けた。
風に乗り、空中で軽やかに舞い踊る。花の薫りが漂いながら、色とりどりの花びらが舞い散る。回転しながら、空中で輝きを放ち、生き物のように蠢く。時折、光の粒が花びらに混じり、太陽の光を反射して煌めく。
高く飛翔し、急降下して再び上昇する。その動きに合わせて花びらが一斉に広がり、空中に巨大な花の形を描き出した。ペオの目の前には、花のシャワーが降り注いだ。風に舞い、サイデンフィルたちは息を合わせて空中での舞踏を続けた。
次に、サイデンフィルたちは滑空しながら、テーブルの料理を覆う布を取り払った。布が舞い上がり、次々と取り除かれていくと、フォカッチャ、ベイクドビーンズ、ポレンタ、ポタージュなど、色彩豊かで美味しそうな料理がテーブルに姿を現した。これらは皆が丹精を込めて作り上げたもので、その美しさは筆舌に尽くしがたいものであった。
---
宴の幕が開かれるや否や、空腹を抱えた者たちは待ちわびたように、次々と料理に手を伸ばし始めた。
「ペオー! おめでとう!――とってやるよ。ほら、何食べたい?」
「ありがと! エイディ!――んーと、ねぇ。カボチャのポタージュとー、フォカッチャ!」
「バター塗るか? お、海藻バターだ。うまそー!」
「うん! お願い!」
隣に座ったエイディの歓待に、ペオは一瞬考え込み、望みを伝えた。エイディは頷き、カボチャのポタージュがたっぷり入った大鍋を手に取り、ボウルに注ぎ入れた。次いで、フォカッチャにたっぷりと海藻バターを塗り、ペオの前に皿を差し出した。
「――ほら」
「ありがとう!」
「どういたしまして」
ペオがフォカッチャを手に取り、一口齧ると、バターの芳香と柔らかなパンの食感が口中に広がり、彼の顔に喜悦の表情が浮かんだ。次に、カボチャのポタージュを口に運ぶ。温かなスープが喉を滑り抜け、その濃厚な甘味と乳味が全身に染み渡った。カボチャの自然な甘味が舌の上で広がり、ペオの表情がさらにほころんだ。
「――うわー!! おーいーしー!」
「だなー! うめー!――ちなみに、フォカッチャは、パニー作だろ?」
「せいかーい!」
「で、えっとカボチャのポタージュは――誰だ?」
「私ー! 私が作ったー!ペオ―、どおー?おいしー?」
「パニー、オーラ、ありがとう!おいしいよ! お口が幸せ―!」
「「どういたしまして!」」
ペオは満ち足りた様子で頷いた。カボチャのポタージュを手がけたオーラが元気よく手を挙げて自己を誇示する。パニーとオーラは、ペオの満悦な様子に微笑を浮かべた。
「――なぁ、ペオ?」
「んー?」
「ようやっと迎えた7歳の感想は?」
「最高に、もう、うれしすぎるよ! 今すぐ海に飛び込みたい気分!」
「――飛び込むなよ」
ロディの問いに得意気に答えていると、向かいの席のリンディが含み笑いの声で揶揄を入れてきた。
「――でも、ママもシェルトもまだ一人で泳ぐなっていうんだ」
「まぁ、だろうな。危ないだろ」
「僕すでに結構泳げるよ?知ってるでしょ?――シェルトと一緒だし、大丈夫だよ」
「一人は危ないだろ」
「えー」
「――ロディは? ロディはいつから一人だった?」
「僕?僕は近くだけなら一人で行くことはあるけど、基本は一人では泳がないよ」
「そういや、昔、迷子になったことあったよな?」
「――迷子じゃないよ――たぶん。遠くまで泳ぎに行った時、急に天候が変わってさ。何とか岸までたどり着いたんだけど、全然知らない場所で――じいちゃんたちが探しに来てくれて、それで何とか無事に戻れたんだけど――ちょっとトラウマで……」
「いや、完全に迷子だろ」
「ほらみろ、ペオ――海で一人は危険なんだぞ」
「――わかってるよ」
「どうだか」
---
「みんなちゃんと食べてる?――ほら、ペオ。野菜ももっと食べなさいね」
「はーい」
皆で談笑していると、背後から軽く肩を叩かれ、振り返ると、そこにはアイガが立っていた。彼女は大皿に盛られた焼き野菜を手に取り、ペオの皿に盛り付けようとした。赤や黄のトマト、緑のズッキーニ、パースニップが艶やかに彩られ、香ばしい焼き色が見事に映えていた。
「――あ、ちなみにこれは、俺とリンディ作な」
「そうなんだ!さすが! 美味しそう!」
加えて、ベイクドビーンズ、ポレンタ、ローストポテト、カプレーゼなど、多彩な料理がテーブルに並び、皆はその豊饒な饗宴を堪能し、満腹になるまで食べ続けた。
---
「改めて、7歳のお誕生日おめでとう。ペオ」
「ペオ、おめでとう」
「ありが――うわぁぁ!! これ!!もしかして!」
皆の腹が十分に満たされた頃、パニーとロロがアプフェルシュトゥルーデルを携えて登場した。このデザートは、パニーたち家族の外界での思い出を象徴する逸品である。外界を一度も訪れたことのないペオにその話を聞かせて以来、リンゴを好物とする彼は強い興味を抱いていた。
しかし、レシピが無く、幾度も記憶を辿りながら試行錯誤を重ねたものの、思い出の味を再現することは容易ではなかった。長い時を経て、ようやく記憶の味に近いものを再現することができたのである。記憶の味そのものではないが、これは自信作だ。
「ペオ様ご依頼の、アプフェルシュトゥルーデルでございます」
「――で、ございます」
「――わぁぉぁぁぁぁ! ありがとう!」
パニーもロロも、サプライズが成功し、ペオの驚きに満ちた表情を見て満足げな笑顔を浮かべた。
あの日の、暗澹たる空気を一掃してくれたのは、ペオの誕生だった。皆の末っ子であるペオの笑顔を見たくて、二人は力を尽くしてきた。その甲斐あってのこの瞬間に、二人は視線を交わし、心の中で歓喜を共有した。パニーが大皿に載せたアプフェルシュトゥルーデルをテーブルの中央に置くと、ロロが穏やかな笑みを湛えながら、ペオにナイフを手渡した。
「はい、入刀はペオね」
「――僕、いいの?」
「もちろん」
ペオはやや緊張しながらも、ナイフをしっかりと握りしめ、切れ込みを入れる。中から甘く煮詰められたリンゴが顔を覗かせ、その美しい断面が露わになった。
「わぁぉぁぁぁぁ! おいしそう!!」
「はい、どうぞ」
「さ、食べて食べて」
ペオはその一切れを手に取り、一口口に運んだ。サクッとした生地の食感と共に、甘酸っぱいリンゴとシナモンの芳香が口中に広がる。彼の瞳は喜悦に輝いた。
「おいしいぃぃぃぃ!」
「――それはよかった。頑張った甲斐があったよね」
「ねー!ほんとに!」
今日の料理はすべてペオの大好物であり、彼はこのまま蕩けてしまいそうな幸福感に包まれていた。二人は視線を交わし、穏やかな微笑を浮かべていた。レシピの開発に共に苦心したエム姉も、離れた席から満足げに微笑んでいた。皆も次々とアプフェルシュトゥルーデルを取り分け、歓声を上げながらその味を堪能していた。
---
食事も終わり、歓談に興じていたところ、興奮を抑えきれないラリスが突如としてナットとリアの肩を引き寄せ、座したまま肩を組み、歌い出した。その明朗な歌声に魅了されるように、手拍子の音が次第に増えていく。
三人の歌声が広場に響き渡り、歓喜に満ちた雰囲気に包まれていった。即興の歌が終わるや否や、喝采と歓声が一斉に上がり、広場の賑やかさが一段と増した。
「――ね、ペオ、立って」
ニミーがペオに手を差し出すと、彼はその手をじっと見つめ、戸惑いつつも、やがて微笑を浮かべて手を差し伸べ、彼女の手をしっかりと握り締めた。
「――ニミー?」
「目をつむって。そのままついてきて」
ニミーがペオの手をしっかりと握り返すと、二人はテーブルから離れ、ゆるやかに歩み出した。
「――ねぇ、まだー?」
「もうちょっと!まだ、目瞑ってて! 開けちゃだめだからね!」
「――えー」
広場の中央に差し掛かると、ニミーはゆっくりと歩みを止め、ペオも目を閉じたまま彼女に倣って足を止めた。彼女はペオに悟られぬよう、オーラにひそやかに目配せを送った。
「――っ!」
オーラは広場の中央へと進み出ると、一息ついて喉を震わせた。彼女の魂がその声に乗り、蒼穹へと昇りつめていく。
「――目を開けていいよ」
歌に合わせてパニーが楽器を手に取り、音を奏で始めると、続いてロロが高音パートで調和させた。リンディ、エイディたちもそれぞれの楽器を手に取り、音楽が広場全体に満ちていった。
「すごい! すごいね!」
「――私と、踊りませんか?」
「うん!」
音楽の旋律に誘われるままに、二人は舞い踊った。彼女はペオの手を引き、時折回転させる。ペオは彼女のリードに従い、その動きにしなやかに応えた。ペオがニミーに足を引っ掛けてしまい転びそうになると、ナットが風を操りその身を支えた。
チャソタパスたちも踊りに加わり、楽しげにステップを踏んだ。サイデンフィルたちは再び空中で舞い踊り、彼らの羽ばたきが風に乗って広場を包み込んだ。スコットリスたちも水面を舞うように泳ぎ、静かに波紋を描きながら優美な模様を生み出した。
二人の踊りに感化され、広場のあちこちで踊る者たちが増え始めた。最近険しい顔が多かったアイガも、ヌプトスと楽しげにリズムに乗っている。楽器を奏でる者たちもリズムに合わせて体を揺らし、歌う者たちはオーラの歌声に和声を重ねる。皆が一体となって祝祭の場を彩り、音楽と舞踏、歌声が一つに融け合う。
歌が終幕に近づくと、二人は最後のステップを踏み、静かに動きを止める。音楽隊の演奏も徐々に静まり、広場には一瞬の静寂が訪れた。
ペオの誕生日パーティ第一部は、こうして美しい幕引きとなった。
「――グウィ、お願いね」
メリーが声を掛けると、小さく一声鳴き、グウィを率先にチャソタパスたちは一斉に駆け出した。彼らの足が広場に色彩を添えるたび、鮮麗な足跡が次々と浮かび上がる。"お"という文字が描かれと、続いて、"誕""生""日"と、一字一字が浮かび出る。彼らはそのまま駆け抜け、文字を完成させていく。
"お誕生日おめでとう!ペオ!"
文字が完成すると、大きな拍手と歓声が送られ、チャソタパスたちは応えるように、歓喜の表情を浮かべて小さな尾を振った。
「うわぁぁぁ!! すごい、すごいよ!」
「――ペオ、まだ気抜いてられないからね! まだまだ続くよー!」
ラリスの掛け声が高らかに響くと、花冠を咥えたチャソタパスたちがペオの前に進み出た。チャソタパスの口からサイデンフィルに花冠が託されると、彼らは優雅に舞いながらペオの頭上に漂う風に乗って飛翔した。
淡緑の花冠がペオの頭頂部にそっと降り立ち、彼の髪は瞬く間に柔和な緑色に染まり始める。色彩は漸次広がり、瑞々しい緑が髪全体を包み込んでいく。次に、淡白の花冠によって、頭頂部から徐々に白へと変容を遂げる。
最後に、淡青の花冠が、蒼穹を映したかの如く、ペオの髪全体が見事な階調で彩られた。
こうして、ペオの髪は美しい色合いに染め上げられた。緑は土の、白は空の、青は海の民の象徴だ。
「――みんな、どうしたの??」
「ほら、ペオ鏡見て!――はい」
「――ぼくの、髪が!?!?!」
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「それでは、皆いいかしら?」
皆が一斉に席を立ち、乾杯の発声を担うエムスタに視線を注いだ。
「ではカウントダウン――3・2・1!!」
「「「「「ペオ、お誕生日おめでとう!!!!!」」」」」
「ありがとうー!!!」
「皆さま、グラスを掲げてー!」
掛け声に呼応し、皆がグラスを高々と掲げる。
「「「「「乾杯!!!!!」」」」」
グラスが軽やかに触れ合い、澄んだ音色を奏でた。
「みんな、ありが――うわぁぁぁ!!!」
ペオが感謝の言葉を口にしようとした刹那、スコットリスたちが水面に躍り出て、大きな飛沫を巻き上げた。彼らの巨大な尾鰭が水を叩き、まるで天空へ向けて水の花火を放つかの如く、無数の水滴が燦然と輝きながら飛び散った。太陽の光が水滴に反射し、虹色の輝きを放つ。
空中に放たれた水飛沫が陽光を浴びて煌めくと、見事な虹が架かり、空と海が一体となった。鮮やかな虹のアーチが祝祭の舞台をさらに彩り、皆の目を奪い続けた。
「――よしっ、最後の仕上げよ!」
ラリス率いる空の民が再び風を起こし、サイデンフィルたちが舞い上がる。空に花吹雪を撒き散らす壮麗な演出が幕を開けた。
風に乗り、空中で軽やかに舞い踊る。花の薫りが漂いながら、色とりどりの花びらが舞い散る。回転しながら、空中で輝きを放ち、生き物のように蠢く。時折、光の粒が花びらに混じり、太陽の光を反射して煌めく。
高く飛翔し、急降下して再び上昇する。その動きに合わせて花びらが一斉に広がり、空中に巨大な花の形を描き出した。ペオの目の前には、花のシャワーが降り注いだ。風に舞い、サイデンフィルたちは息を合わせて空中での舞踏を続けた。
次に、サイデンフィルたちは滑空しながら、テーブルの料理を覆う布を取り払った。布が舞い上がり、次々と取り除かれていくと、フォカッチャ、ベイクドビーンズ、ポレンタ、ポタージュなど、色彩豊かで美味しそうな料理がテーブルに姿を現した。これらは皆が丹精を込めて作り上げたもので、その美しさは筆舌に尽くしがたいものであった。
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宴の幕が開かれるや否や、空腹を抱えた者たちは待ちわびたように、次々と料理に手を伸ばし始めた。
「ペオー! おめでとう!――とってやるよ。ほら、何食べたい?」
「ありがと! エイディ!――んーと、ねぇ。カボチャのポタージュとー、フォカッチャ!」
「バター塗るか? お、海藻バターだ。うまそー!」
「うん! お願い!」
隣に座ったエイディの歓待に、ペオは一瞬考え込み、望みを伝えた。エイディは頷き、カボチャのポタージュがたっぷり入った大鍋を手に取り、ボウルに注ぎ入れた。次いで、フォカッチャにたっぷりと海藻バターを塗り、ペオの前に皿を差し出した。
「――ほら」
「ありがとう!」
「どういたしまして」
ペオがフォカッチャを手に取り、一口齧ると、バターの芳香と柔らかなパンの食感が口中に広がり、彼の顔に喜悦の表情が浮かんだ。次に、カボチャのポタージュを口に運ぶ。温かなスープが喉を滑り抜け、その濃厚な甘味と乳味が全身に染み渡った。カボチャの自然な甘味が舌の上で広がり、ペオの表情がさらにほころんだ。
「――うわー!! おーいーしー!」
「だなー! うめー!――ちなみに、フォカッチャは、パニー作だろ?」
「せいかーい!」
「で、えっとカボチャのポタージュは――誰だ?」
「私ー! 私が作ったー!ペオ―、どおー?おいしー?」
「パニー、オーラ、ありがとう!おいしいよ! お口が幸せ―!」
「「どういたしまして!」」
ペオは満ち足りた様子で頷いた。カボチャのポタージュを手がけたオーラが元気よく手を挙げて自己を誇示する。パニーとオーラは、ペオの満悦な様子に微笑を浮かべた。
「――なぁ、ペオ?」
「んー?」
「ようやっと迎えた7歳の感想は?」
「最高に、もう、うれしすぎるよ! 今すぐ海に飛び込みたい気分!」
「――飛び込むなよ」
ロディの問いに得意気に答えていると、向かいの席のリンディが含み笑いの声で揶揄を入れてきた。
「――でも、ママもシェルトもまだ一人で泳ぐなっていうんだ」
「まぁ、だろうな。危ないだろ」
「僕すでに結構泳げるよ?知ってるでしょ?――シェルトと一緒だし、大丈夫だよ」
「一人は危ないだろ」
「えー」
「――ロディは? ロディはいつから一人だった?」
「僕?僕は近くだけなら一人で行くことはあるけど、基本は一人では泳がないよ」
「そういや、昔、迷子になったことあったよな?」
「――迷子じゃないよ――たぶん。遠くまで泳ぎに行った時、急に天候が変わってさ。何とか岸までたどり着いたんだけど、全然知らない場所で――じいちゃんたちが探しに来てくれて、それで何とか無事に戻れたんだけど――ちょっとトラウマで……」
「いや、完全に迷子だろ」
「ほらみろ、ペオ――海で一人は危険なんだぞ」
「――わかってるよ」
「どうだか」
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「みんなちゃんと食べてる?――ほら、ペオ。野菜ももっと食べなさいね」
「はーい」
皆で談笑していると、背後から軽く肩を叩かれ、振り返ると、そこにはアイガが立っていた。彼女は大皿に盛られた焼き野菜を手に取り、ペオの皿に盛り付けようとした。赤や黄のトマト、緑のズッキーニ、パースニップが艶やかに彩られ、香ばしい焼き色が見事に映えていた。
「――あ、ちなみにこれは、俺とリンディ作な」
「そうなんだ!さすが! 美味しそう!」
加えて、ベイクドビーンズ、ポレンタ、ローストポテト、カプレーゼなど、多彩な料理がテーブルに並び、皆はその豊饒な饗宴を堪能し、満腹になるまで食べ続けた。
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「改めて、7歳のお誕生日おめでとう。ペオ」
「ペオ、おめでとう」
「ありが――うわぁぁ!! これ!!もしかして!」
皆の腹が十分に満たされた頃、パニーとロロがアプフェルシュトゥルーデルを携えて登場した。このデザートは、パニーたち家族の外界での思い出を象徴する逸品である。外界を一度も訪れたことのないペオにその話を聞かせて以来、リンゴを好物とする彼は強い興味を抱いていた。
しかし、レシピが無く、幾度も記憶を辿りながら試行錯誤を重ねたものの、思い出の味を再現することは容易ではなかった。長い時を経て、ようやく記憶の味に近いものを再現することができたのである。記憶の味そのものではないが、これは自信作だ。
「ペオ様ご依頼の、アプフェルシュトゥルーデルでございます」
「――で、ございます」
「――わぁぉぁぁぁぁ! ありがとう!」
パニーもロロも、サプライズが成功し、ペオの驚きに満ちた表情を見て満足げな笑顔を浮かべた。
あの日の、暗澹たる空気を一掃してくれたのは、ペオの誕生だった。皆の末っ子であるペオの笑顔を見たくて、二人は力を尽くしてきた。その甲斐あってのこの瞬間に、二人は視線を交わし、心の中で歓喜を共有した。パニーが大皿に載せたアプフェルシュトゥルーデルをテーブルの中央に置くと、ロロが穏やかな笑みを湛えながら、ペオにナイフを手渡した。
「はい、入刀はペオね」
「――僕、いいの?」
「もちろん」
ペオはやや緊張しながらも、ナイフをしっかりと握りしめ、切れ込みを入れる。中から甘く煮詰められたリンゴが顔を覗かせ、その美しい断面が露わになった。
「わぁぉぁぁぁぁ! おいしそう!!」
「はい、どうぞ」
「さ、食べて食べて」
ペオはその一切れを手に取り、一口口に運んだ。サクッとした生地の食感と共に、甘酸っぱいリンゴとシナモンの芳香が口中に広がる。彼の瞳は喜悦に輝いた。
「おいしいぃぃぃぃ!」
「――それはよかった。頑張った甲斐があったよね」
「ねー!ほんとに!」
今日の料理はすべてペオの大好物であり、彼はこのまま蕩けてしまいそうな幸福感に包まれていた。二人は視線を交わし、穏やかな微笑を浮かべていた。レシピの開発に共に苦心したエム姉も、離れた席から満足げに微笑んでいた。皆も次々とアプフェルシュトゥルーデルを取り分け、歓声を上げながらその味を堪能していた。
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食事も終わり、歓談に興じていたところ、興奮を抑えきれないラリスが突如としてナットとリアの肩を引き寄せ、座したまま肩を組み、歌い出した。その明朗な歌声に魅了されるように、手拍子の音が次第に増えていく。
三人の歌声が広場に響き渡り、歓喜に満ちた雰囲気に包まれていった。即興の歌が終わるや否や、喝采と歓声が一斉に上がり、広場の賑やかさが一段と増した。
「――ね、ペオ、立って」
ニミーがペオに手を差し出すと、彼はその手をじっと見つめ、戸惑いつつも、やがて微笑を浮かべて手を差し伸べ、彼女の手をしっかりと握り締めた。
「――ニミー?」
「目をつむって。そのままついてきて」
ニミーがペオの手をしっかりと握り返すと、二人はテーブルから離れ、ゆるやかに歩み出した。
「――ねぇ、まだー?」
「もうちょっと!まだ、目瞑ってて! 開けちゃだめだからね!」
「――えー」
広場の中央に差し掛かると、ニミーはゆっくりと歩みを止め、ペオも目を閉じたまま彼女に倣って足を止めた。彼女はペオに悟られぬよう、オーラにひそやかに目配せを送った。
「――っ!」
オーラは広場の中央へと進み出ると、一息ついて喉を震わせた。彼女の魂がその声に乗り、蒼穹へと昇りつめていく。
「――目を開けていいよ」
歌に合わせてパニーが楽器を手に取り、音を奏で始めると、続いてロロが高音パートで調和させた。リンディ、エイディたちもそれぞれの楽器を手に取り、音楽が広場全体に満ちていった。
「すごい! すごいね!」
「――私と、踊りませんか?」
「うん!」
音楽の旋律に誘われるままに、二人は舞い踊った。彼女はペオの手を引き、時折回転させる。ペオは彼女のリードに従い、その動きにしなやかに応えた。ペオがニミーに足を引っ掛けてしまい転びそうになると、ナットが風を操りその身を支えた。
チャソタパスたちも踊りに加わり、楽しげにステップを踏んだ。サイデンフィルたちは再び空中で舞い踊り、彼らの羽ばたきが風に乗って広場を包み込んだ。スコットリスたちも水面を舞うように泳ぎ、静かに波紋を描きながら優美な模様を生み出した。
二人の踊りに感化され、広場のあちこちで踊る者たちが増え始めた。最近険しい顔が多かったアイガも、ヌプトスと楽しげにリズムに乗っている。楽器を奏でる者たちもリズムに合わせて体を揺らし、歌う者たちはオーラの歌声に和声を重ねる。皆が一体となって祝祭の場を彩り、音楽と舞踏、歌声が一つに融け合う。
歌が終幕に近づくと、二人は最後のステップを踏み、静かに動きを止める。音楽隊の演奏も徐々に静まり、広場には一瞬の静寂が訪れた。
ペオの誕生日パーティ第一部は、こうして美しい幕引きとなった。