“釣り合わない”彼女の心を壊すには、十分すぎる言葉だった。

あやかしの中では地位の低い、猫又の家系に生まれた小桜小春。彼女は、16歳になり、あやかしのトップに君臨する鬼様……紅山尊に嫁ぐことになった。



「だ、旦那様……これから、よろしくお願いいたします……」

「……」


初めてお見えした時、尊は何一つ言葉を発しなかった。

だけど……恋も、まともに男性と関わったことのない箱入り娘にとって、その美しさは見惚れるに足りすぎてしまった。


立派な式をあげて、しばらく時が流れる。

小春は、なぜだか、尊を見ると胸が高なってしまって……仕事ができるところや、冷たいながら周りに気遣いができるところも、全てが愛おしくてたまらなくなっていた。


4歳年上の尊は、とても大人びて見えて……自分が、どれだけお子ちゃまなのかとてもよく理解している。

それでも、尊の気を引きたくて……たまに、食事を作ってあげることもあった。

だが、一口も食べてもらえずに終わる。

またある時は、ハンカチを縫ってみたり……直接、何かをするわけではなかったが一生懸命やってみた。


やはり、尊の気を引くことはできなかった。

それどころか、周りの反対を押し切って親同士が結婚させたらしく、周囲の人々はずっと否定をし続けた。2人の結婚に。


そんな彼女の前に、唯一の救いが現れる。

ある日、気まぐれで庭に出ると可愛らしいどっしりとした猫又がいたのだ。


「お主」
「……?私ですか」
「そうだ。名はなんという?」
「小春です」
「小春か、今日からお前はわしの友達じゃ」
「……え?友達?」
「ああ」


にまーと嬉しそうにドヤ顔する猫又。別に嫌なわけでもないので、そおっとしておくことにした。

だけどこの猫又がまた幸運なもので、彼のもふもふな背中を撫でるとその日は陰口を言われることが亡くなったのだった。