午後の全体会議は、三階の第一会議室で行われた。
それぞれの前に、山辺が深紅のヴェルベット張りの縦長の箱を配布していく。
灰野と並んでそれを見ていると、パンパンと手を叩いて相樂が視線を集めた。
「帝国陸軍あやかし対策部隊の上層部において、牛鬼の具体的な討伐方法を一つ開発したとの一報が入った」
その声に、全員の視線が集まる。
「牛面が一つの要であることは古来より判明していたが、あの面は傷つけることが困難だと言われてきた。しかしこの度、その面に傷をつけることが可能な護刀が開発された。それが今配ってもらった品だ。各自手に取るように」
言われた通りに時生も手に取り、ゆっくりと箱を開けてみる。するとそこには、持ち手の先に、鉱石を削り出したような刀身のある短刀が入っていた。紅い紐が巻き付けられている。
「牛面を破壊できそうな場合、この品を用いるように。だが決して、一人で無理に立ち向かおうとするな。命を賭しても倒すべき敵であるのは間違いはないが、自分の身もまた必ず守るように。ここにいるのは、皆仲間だ。一人でなく、協力することが出来る。それを決して忘れるな」
相樂の言葉に、皆が固唾を呑んでから頷いた。
他には牛鬼の足取りや、結櫻の動向は依然として不明だという話がなされたあと、その日は解散となった。
偲は残って雑務の処理をするそうだったので、時生は一足早く軍本部を出る。
ちらつく雪の中を歩きながら、懐にしまってある護刀について考えた。
これがあれば牛鬼を討伐することが出来るのだろうかと漠然と思う。
そうして公園の前を通り過ぎようとした時だった。
「あ」
声がしたのでそちらを見れば、ブランコから飛び降りた青年が、時生を見て笑みを浮かべた。糸のように細い目がさらに細まっていて、楽しそうな顔をしながら、青年がこちらへと歩いてくる。銀色の髪が揺れている。
また、だ。また、既視感がする。
銀色の色彩の髪を見たのなど、初めてのはずなのに。
時生はそう考えた直後、今度は何処で彼を見た事があるのかを思い出した。
いつか見た悪夢の中で、先日の雛乃という女性も、今歩いてくる彼も――そして、裕介の死も目にしたのだと、はっきりと思い出した。
「はじめましてだね」
長身で細身の青年は、少し屈むと、立ち止まった時生を覗きこんだ。
マフラーが冬の風で揺れている。
「待ってたんだよ、高圓寺時生くんだろ?」
「……ええと、貴方は……」
「僕は黎千直斗。四将の一つ、黎千家の長男で、姉が時生くんと同じ部隊に所属してる。僕も来年からお世話になるんだ。そうなったら、宜しく。直斗って呼んで」
楽しそうな顔をしている直斗は、それから姿勢を正すと顔を右の方角へと向けた。
なんとなく時生もそちらを見る。
するとそこには、新鹿鳴館の屋根が見えた。
「噂にはなってたけど、さっき黎千家にもきちんと招待状が届いたから、今頃高圓寺家も大騒ぎだと思うよ。招待客の一覧を見たかぎり」
「え?」
「鬼月家が気合いを入れて、多くを招待しているから、クリスマス・イブには、たくさんの人が集まるみたいだ。前夜と当日、異国では靴下に、サンタクロースという者が贈り物をくれるというけど、僕達にもなにかあるのかな」
直斗の話が上手く理解出来ず、時生はきょとんとした。
「じゃあな。僕はもう行くよ。またすぐに会える。その時は、もっとゆっくり話そう。また」
そう言うと直斗が時生の隣をすり抜けて歩きはじめた。
風で揺れている彼のマフラーを見ながら、時生は狐につままれたような心地になっていた。
それぞれの前に、山辺が深紅のヴェルベット張りの縦長の箱を配布していく。
灰野と並んでそれを見ていると、パンパンと手を叩いて相樂が視線を集めた。
「帝国陸軍あやかし対策部隊の上層部において、牛鬼の具体的な討伐方法を一つ開発したとの一報が入った」
その声に、全員の視線が集まる。
「牛面が一つの要であることは古来より判明していたが、あの面は傷つけることが困難だと言われてきた。しかしこの度、その面に傷をつけることが可能な護刀が開発された。それが今配ってもらった品だ。各自手に取るように」
言われた通りに時生も手に取り、ゆっくりと箱を開けてみる。するとそこには、持ち手の先に、鉱石を削り出したような刀身のある短刀が入っていた。紅い紐が巻き付けられている。
「牛面を破壊できそうな場合、この品を用いるように。だが決して、一人で無理に立ち向かおうとするな。命を賭しても倒すべき敵であるのは間違いはないが、自分の身もまた必ず守るように。ここにいるのは、皆仲間だ。一人でなく、協力することが出来る。それを決して忘れるな」
相樂の言葉に、皆が固唾を呑んでから頷いた。
他には牛鬼の足取りや、結櫻の動向は依然として不明だという話がなされたあと、その日は解散となった。
偲は残って雑務の処理をするそうだったので、時生は一足早く軍本部を出る。
ちらつく雪の中を歩きながら、懐にしまってある護刀について考えた。
これがあれば牛鬼を討伐することが出来るのだろうかと漠然と思う。
そうして公園の前を通り過ぎようとした時だった。
「あ」
声がしたのでそちらを見れば、ブランコから飛び降りた青年が、時生を見て笑みを浮かべた。糸のように細い目がさらに細まっていて、楽しそうな顔をしながら、青年がこちらへと歩いてくる。銀色の髪が揺れている。
また、だ。また、既視感がする。
銀色の色彩の髪を見たのなど、初めてのはずなのに。
時生はそう考えた直後、今度は何処で彼を見た事があるのかを思い出した。
いつか見た悪夢の中で、先日の雛乃という女性も、今歩いてくる彼も――そして、裕介の死も目にしたのだと、はっきりと思い出した。
「はじめましてだね」
長身で細身の青年は、少し屈むと、立ち止まった時生を覗きこんだ。
マフラーが冬の風で揺れている。
「待ってたんだよ、高圓寺時生くんだろ?」
「……ええと、貴方は……」
「僕は黎千直斗。四将の一つ、黎千家の長男で、姉が時生くんと同じ部隊に所属してる。僕も来年からお世話になるんだ。そうなったら、宜しく。直斗って呼んで」
楽しそうな顔をしている直斗は、それから姿勢を正すと顔を右の方角へと向けた。
なんとなく時生もそちらを見る。
するとそこには、新鹿鳴館の屋根が見えた。
「噂にはなってたけど、さっき黎千家にもきちんと招待状が届いたから、今頃高圓寺家も大騒ぎだと思うよ。招待客の一覧を見たかぎり」
「え?」
「鬼月家が気合いを入れて、多くを招待しているから、クリスマス・イブには、たくさんの人が集まるみたいだ。前夜と当日、異国では靴下に、サンタクロースという者が贈り物をくれるというけど、僕達にもなにかあるのかな」
直斗の話が上手く理解出来ず、時生はきょとんとした。
「じゃあな。僕はもう行くよ。またすぐに会える。その時は、もっとゆっくり話そう。また」
そう言うと直斗が時生の隣をすり抜けて歩きはじめた。
風で揺れている彼のマフラーを見ながら、時生は狐につままれたような心地になっていた。