「汐里、好きだよ」
「私も、拓海くんのこと…」
言いかけたところで、拓海くんの指が私の唇に触れた。
“そこから先は言わないで”と瞳が言っている。
どうして?
どうして言わせてくれないの?
私だって拓海君のこと、大好きなのに―
―――ピピピピ
突然、静寂を破って電子音が鳴り響いた。
「――…なんだ夢かぁ…」
電子音の正体は、枕元に置いてあるスマホのアラーム音。
「いいところだったのになぁ……」
思わずそうつぶやきながら停止ボタンをタップした。
ホーム画面には、さっきまで夢に見ていた拓海くんの画像。
昨日の夜も寝る前につい夢中でゲームをやってしまったから、あんな夢を見たのかな。
それにしてもさっきの拓海くん、カッコ良かったなぁ。
……なんて、夢の余韻に浸ってる場合じゃない。
今日は朝一番でお客さんのアポが入っているから、一本早い電車に乗って準備しなくちゃいけない。
予定通り一本早い電車に間に合いそう。
ホームに到着した電車は、通勤ラッシュの時間帯にもかかわらず空いている。
下り方面の電車だから毎朝座れるというところだけは今の支店に配属になって良かったなと思う。
座って落ち着いたところでスマホを取り出して、アプリを起動させる。
今私が最もハマっているゲーム『ときめきデイズ』。
六人のイケメンと恋愛をする恋愛シミュレーションゲーム。
最近よくCMでも流れている乙女ゲームだ。
私は登場する六人のキャラクターの中で岩崎 拓海くんというキャラがお気に入り。
今はエンディングで拓海君に告白されるために頑張っているところだ。
とにかく時間さえあればすぐにゲームをしている私だけど、こんなに乙女ゲームにハマっているのには理由がある。
両親が小さい頃から教育熱心だったから、小学校から私立の学校に通っていて、中学から女子校だったこともあって、今まで恋愛をしたことがないから。
なんて、周りの人には絶対に言えない秘密。
だけど、今日も私はゲームの中の拓海くんに恋をしている。