「……承知しました。姉さん達にも報告しておきます」
「うん、よろしくね」
「ユメビシさんも、ゆっくりなさってください」
「……! ありがとうございます」
「それでは、お通り下さい」
彼はそう告げると一礼し、景色に溶けるように、どこかへ消えてしまった。
目を疑う俺をよそに、一つ大きな伸びをしたヨミトは立ち上がる。
「さて許可も下りた事だし、そろそろ行くとしようか」
「許可?」
「ソウヒはね、ここらの門番なんだ。だから姿を現した。これでユメビシも気兼ねなく街へ入れるよ」
付着した砂を払い、ヨミトが歩き出した先を見れば、朱色の鮮やかな鳥居が三つ。
また小道を挟んだ左右には、似たような薄暗い竹林が何処までも続いている。
「ところでユメビシさ、さっきはえらく態度が違ったよね」
「は?」
「ほら! それだよ、それ!」
「いや、ここ最近出会ってすぐ襲われてばかりだったから。感動して」
「なにそれ物騒だね」
「何故、自分は関係ないって面が出来るんだ?」
「知ってたかい? ソウヒはトキノコの弟なんだ」
――都合の悪いことは聞こえない体質なのだろうか。
「……ん? トキノコの弟?」
「そうそう、あと彼女には双子の姉もいるよ。姉が一番おっかないから、気をつけることだね」
「……善処するよ」
そんな会話をしながら鳥居をくぐった先には。
――突然、多くの人々が行き交い賑わう、商店街のような大通りが現れた。
「…………なっ!?」
「あぁ、初めてだと驚くよね」
「……どうなってるんだ。幻覚か?」
「まあ言ってしまえば騙し絵に近いかな。例えばさ、今通った鳥居はいくつあった?」
「三つだと思ったが、違うのか」
「本来はね二つなんだ。認識の齟齬を引き起こす結界、といったものさ」
「はぁ……そうですか」
――いけない、これまで出鱈目な事ばかりに遭遇したから感覚が麻痺してるような。
一抹の不安を感じたが……いや、きっとこれでいい。
そういうこともある、それ以上でも以下でもない。
今更正気なんてもの取り戻したら、発狂のし過ぎで壊れてしまう。
「ここを通り抜けたら、傘ザクラまであと少しだけど……どうかした?」
「別になんでもないよ」
「そうかい? じゃあここで注意事項ね。悪目立ちしたくなければ、堂々と僕の隣を歩いたほうがいい」
「どういう意味だ?」
「言ったでしょ。皆新しい顔には敏感だからね。僕の後ろを突いて歩く、見たことない子がいたら警戒されてしまう」
だからおいで〜、と手招きされる。
こちらとしても要らぬ警戒を買いたくはない一心で、ヨミトの隣に並ぶ。
すると言い出した張本人が、意外そうな声を上げる。
「おや、やけに素直じゃないか」
「うるさい。先を急ぐんだろ」
「ふふっ、そうだね行こうか」
ヨミトが言った通り、俺達は多くの視線を集めていた。
しかし当初予想していた警戒、不審からくるものではなく、どちらかというと……
「ヨミト様だわ」
「あら本当、今日も麗しいわ」
「ヨミト様ー!」
「隣の子もステキな雰囲気……」
「お似合いね」
女性からの黄色い声援。
もしかしなくても、目立ってるのは俺じゃなくて……
「ヨミト様〜、新しい茶菓子が出来ましたぞ! またいらして下さいな」
「翁、今度伺うよ」
いや……老若男女問わずの人気っぷりだった。
「なあ、離れて歩いていいか?」
「え、どうしてだい」
「かえって無駄に目立ってるじゃないか!」
「でも怪しまれてはないだろう?」
「それは」
紛れもない事実なので反論に困ってしまう。
「せめて、もう少し人目につかない道はなかったのか?」
「無くはないけど、遠回りになるからね。我慢して」
「……やれやれ」