「なんてな」
それから揶揄ったような至くんの声が響いたかと思うと、意識が急激にどこかへ引っ張られるような感覚がした。
それはまるで、ハッと夢から覚めるような感覚だった。
「わああああっ!?」
よく分からない事態に驚き、大声を出しながら飛び起きる。
そんな私の目の前に広がったのは、いつもの保健室の光景だった。
混乱しながら横を向けば、椅子に座って私の左手を握った至くんがこちらを見上げていた。
「どうした? やらしい夢でも見たみたいに顔が赤い」
まるでしてやったりとでもいうように、至くんがいじわるな笑みを浮かべる。
その言葉を聞いて、さらに熱が顔へと集中するのが分かったた。
「ああああれは! 至くんが見せた夢でしょう!?」
「ああそうだよ。悪くなかっただろ?」
「なっ、あっ……!」
「冗談だ、落ち着け。それにいくらリアルに感じられても、結局あれはただの夢だ。俺はあんたの左手にしか触ってない」
至くんの手がパッと離れていく。
けれど皮膚に残った彼の体温はなかなか冷めず、その熱になぜか胸がドキドキとした。
戸惑う私とは対照的に、ベッドに肘をついて頬杖をしている至くんは、実に飄々とした顔をしている。
「夢の中とはいえ、どうしてあんなことしたの?」
不可解な至くんの行動の理由を聞けば、彼は不機嫌な目で私を見据えた。
「松嶋さんのことばかり考えているあんたが気に食わなかったから、夢魔らしく誘惑でもしてみようかと思ってな」
「どういうこと……?」
「分からないか?」
至くんが私の座るベッドへと乗り上げる。
彼の綺麗な顔がすぐ近くまで迫って、私はその顔を直視しないように慌てて俯いた。
今日の至くんはどこか様子がおかしい。
まるで生粋の夢魔のように、私の気持ちを翻弄する。
「なぁ。本当に分からないのかよ」
「わっ、分かんないよ……!」
「じゃあ一回しか言わない」
俯く私の顔を、至くんが首を傾けて覗き込む。
形のよいその薄い唇が動くのが、なぜか私の目にはとてもゆっくりと映った。
「結花が好きだ」
至くんの唇からこぼれ落ちた声は、あっけなく響いて私の耳をすり抜けていった。
その意味を把握するのに時間がかかり、間抜けなまばたきを何度も繰り返す。
彼の真っ直ぐな目は、嘘や冗談を言っているようには見えない。
――至くんは、私のことが、好き。
言葉を噛み砕き、ようやく意味を理解する。
それと同時に広がったのは、ひび割れた心に甘く染み入るような悦びだった。
「いつか俺のことしか見えないようにするから、もうあの人を思って泣くな」
「……至くんがそんなことを言うなんて、まだ夢を見てるみたい」
「言ってろ」
ベッドを降りた至くんが、呆れたように私に背を向ける。
しかし真っ赤に染まった耳が隠しきれておらず、私は気づかれないように小さく笑った。
それから揶揄ったような至くんの声が響いたかと思うと、意識が急激にどこかへ引っ張られるような感覚がした。
それはまるで、ハッと夢から覚めるような感覚だった。
「わああああっ!?」
よく分からない事態に驚き、大声を出しながら飛び起きる。
そんな私の目の前に広がったのは、いつもの保健室の光景だった。
混乱しながら横を向けば、椅子に座って私の左手を握った至くんがこちらを見上げていた。
「どうした? やらしい夢でも見たみたいに顔が赤い」
まるでしてやったりとでもいうように、至くんがいじわるな笑みを浮かべる。
その言葉を聞いて、さらに熱が顔へと集中するのが分かったた。
「ああああれは! 至くんが見せた夢でしょう!?」
「ああそうだよ。悪くなかっただろ?」
「なっ、あっ……!」
「冗談だ、落ち着け。それにいくらリアルに感じられても、結局あれはただの夢だ。俺はあんたの左手にしか触ってない」
至くんの手がパッと離れていく。
けれど皮膚に残った彼の体温はなかなか冷めず、その熱になぜか胸がドキドキとした。
戸惑う私とは対照的に、ベッドに肘をついて頬杖をしている至くんは、実に飄々とした顔をしている。
「夢の中とはいえ、どうしてあんなことしたの?」
不可解な至くんの行動の理由を聞けば、彼は不機嫌な目で私を見据えた。
「松嶋さんのことばかり考えているあんたが気に食わなかったから、夢魔らしく誘惑でもしてみようかと思ってな」
「どういうこと……?」
「分からないか?」
至くんが私の座るベッドへと乗り上げる。
彼の綺麗な顔がすぐ近くまで迫って、私はその顔を直視しないように慌てて俯いた。
今日の至くんはどこか様子がおかしい。
まるで生粋の夢魔のように、私の気持ちを翻弄する。
「なぁ。本当に分からないのかよ」
「わっ、分かんないよ……!」
「じゃあ一回しか言わない」
俯く私の顔を、至くんが首を傾けて覗き込む。
形のよいその薄い唇が動くのが、なぜか私の目にはとてもゆっくりと映った。
「結花が好きだ」
至くんの唇からこぼれ落ちた声は、あっけなく響いて私の耳をすり抜けていった。
その意味を把握するのに時間がかかり、間抜けなまばたきを何度も繰り返す。
彼の真っ直ぐな目は、嘘や冗談を言っているようには見えない。
――至くんは、私のことが、好き。
言葉を噛み砕き、ようやく意味を理解する。
それと同時に広がったのは、ひび割れた心に甘く染み入るような悦びだった。
「いつか俺のことしか見えないようにするから、もうあの人を思って泣くな」
「……至くんがそんなことを言うなんて、まだ夢を見てるみたい」
「言ってろ」
ベッドを降りた至くんが、呆れたように私に背を向ける。
しかし真っ赤に染まった耳が隠しきれておらず、私は気づかれないように小さく笑った。