愛によって放たれた矢は、ターゲット目掛けて、一直線に飛んでいく。

 これならば、すぐに成婚率も上向きになるだろう。

 申し分ない腕前に、僕は、余裕綽綽、腕を組み、事の成り行きを見守っていた。

 しかし。

--ペシ! カランラン……

 耳に届いたその音に、僕は、目を見開く。

 愛の矢は……

 ターゲットが、ファサっと首元の髪をかき上げた拍子に、無情にも手の甲で払い落とされ、虚しく、地面に転がった。

「あぁ……」
「そんな……、私が、外すなんて……」

 僕の口からは、無意味な音が漏れる。僕の隣で自信満々に矢を放った張本人も、信じられないと言うように、呆然としている。

 ターゲットは、自分が仕出かした事など全く気が付かず、取り巻き達と楽しそうに談笑しながら、屋内へと姿を消した。

「あの……、すみません。弓の腕には、かなり自信があったのですが……」

 愛は、失敗したと言う事実に、相当打ちのめされているようで、すっかり俯きポーズだ。

「だ、ダイジョブ、ダイジョブ。ほら、まだ、矢はあと2本あるし。次、次……」

 僕は顔を引きつらせながらも、愛のテンションを戻す為、なるべく明るく応える。

「次……そうですね。次こそは」

 愛は顔を上げ、キリリと表情を引き締めた。

 しかし、あのターゲットは、ずいぶんとタイミング良く、愛の矢を払い落とせたものだと考えて、ある可能性に思い至る。

 稀にあるのだ。他のキューピットの矢を受けている者を、ターゲットとしてしまうことが。

 ターゲット被りが起こることは滅多にないのだが、全くないと言うこともない。そんな時は、今回のように、ターゲット自身によって、本人たちはそうとは気づかずに、愛の矢を払い落とすことが出来る。

 もしかしたら、的中済み物件だったのか。

 そんなことを考えていると、耳元で、愛が遠慮がちに声をあげる。

「あ! あの人はどうでしょう?」

 愛の指し示す方へ視線を送ると、Tシャツにショートパンツスタイルで、颯爽とジョギングをする、ショートヘアの女性がいた。

「あの人、髪短いよ。真野くんの条件には……」
「ですが、真野さんの第2条件は、スポーツをする人ですよ。条件は1つ当てはまればいいのですよね?」
「確かにそうだけど……」
「私に、任せてください。今度は、絶対外しません」

 先ほどのこともあるので、慎重にターゲットは見極めたほうが良いのだが……

 僕の逡巡の隙をついて、愛は、2本目の矢を番え、ターゲット目掛けて、目一杯弓を引き絞る。