僕の誘いを、初めは眉を(ひそ)めて、胡散臭そうに聞いていた愛だったが、僕の懸命なアピールの甲斐あってか、事務所で話の続きを聞いても良いと、態度を軟化させてくれた。

 堅物で融通の効かなそうな印象を受けたが、実は、真面目な良い子なのだろう。

 まぁ、真面目過ぎるが故に、就職活動は暗礁に乗り上げているようだから、内心は、僕のスカウトに思いっきり飛びつきたいのかもしれない。これは、案外すんなりと射手を確保できるかもしれないぞ。

 彼女を確保出来たら、すぐにでも仕事に取り掛かれるように、道すがら、宣伝用のチラシもばら撒いてきた。準備に抜かりは無い。

 いざ! スカウト開始!

「さあさあ。座って座って」

 事務所の入り口に立ったまま、不躾に室内を見廻している愛に、僕は、依頼者と面談をする時に使う、応接ソファへ腰を下ろすよう勧める。

「ここは本当に結婚相談所なのですか?」
「そうだけど?」

 納得がいかないという顔で、室内をジロジロと見られるが、見られて困るような物もない。何しろ、室内は、打ちっぱなしのコンクリート壁に四方を囲まれ、こじんまりとした応接セットと、事務用の机が1つ、その上にデスクトップ型のパソコンが1台あるだけだ。

「結婚相談所と聞いていたので、私は、もっとこう、……ピンクピンクした煌びやかな所を想像していました」
「ピ、ピンクピンク?」
「はい。ハートの風船が浮かんでいたり、ピンクの壁紙だったり……」

 一体、どんなイメージだ。それは。いや、もしかしたら、それが、世間一般の結婚相談所というものなのだろうか。これは、市場調査が必要かもしれないな。

「いや〜、うちは、ちょっと特別な事務所でね。他所とは違うのだけれど、愛くんは、その、ピンクピンク? していた方がいいのかな?」
「いえ、私は、そういった感じは苦手ですので、この、殺風景な感じに少し安心しました」
「……あ、……ははは。あ、そう。それは良かった」

 歯に絹着せぬ物言いに、僕は、乾いた笑いを出すしかない。しかしながら、彼女にとっては、事務所の印象は悪くないようなので、良しとするか。

「ところで、私をスカウトというお話ですが、私のどこを買われてのことでしょうか? その……実は、大変申し上げにくいのですが……私は、恋愛経験がございません……」
「恋愛経験? そんなもの必要ありませんよ」

 僕は、愛の目を見て、キッパリという。

「きみの、弓の腕前さえあれば、問題ありません!」