私の両親は驚きつつも、成人した娘が決めたことならと全面的に応援してくれた。
 結婚をせっつかれる同僚もいるなか、ありがたいと思う。
 
 早織のご両親にも報告した。申し訳ないと何度も頭を下げられて、逆にこちらが恐縮してしまった。

 それでも――ううん、親の反対がなかったからこそ、早織は悩み続けた。

「やっぱりさ……子育てまで巻きこめないよ」

 今日は私の家に遊びに来てもらい、やっぱり航希君がお昼寝中に話し合う。
 早織の家に行ったときと違って、わが家に二人がいるともう同居できた気分になってしまう。
 私にはワクワク感しかわき上がってこない。
 だからその分、早織がネガティブな感情をぜんぶ引き受けてくれてるのかと思うくらいだ。
 
「逆に聞くけど、恋愛感情もってないと子育てに参加しちゃいけないの?」

 今まで考えたこともなかったけれど、再婚前提じゃないと子供の面倒みちゃいけないなんて、そんなことはないはずだ。
 動物だって、ほかのメスが産んだ子どもを群れにいる別のメスが育てるとかも聞いたことあるし……って、これは飛躍しすぎか。いい例えがないかと思案していたら、早織が声をしぼり出した。
 
「いけなくない……でも、梢の婚活を邪魔するよ」
「だから婚活は当分いいんだって。そんなに言うなら、シェアハウスしたら子育ての予習になるでしょ」
「うーん……」
「たとえばさ、もし運命の出会いがひと月以内にあるって保証されてるなら迷うよ。でも何年もそんなものなくて、婚活しても見つからなくて、だったら目先の幸せを満喫したいと思ってもよくない?」
「ううーん……梢にばかり負担かけるような……子育てって楽しいだけじゃないし」
「だから予習だって」
「うううーん…………」

 本当に私は、ちっとも負担になんて思っていなんだけどな。
 
 小児科で子育ての一端を担ったことがあるというのは自意識過剰だろうか。
 
 大抵の小児科病棟は親の24時間付き添いが必要だけど、うちの病院はそうじゃない。面会時間外は基本的に親と離れる。
 だから夜泣き対応は夜勤ごとにしたし、ミルクをあげたりご飯を食べさせるなんて複数人を同時進行だ。
 眠れない小学生の歴史談義に付き合ったりとか、内緒でゲームやスマホを持ちこんだ子の指導をするなんてこともあった。
 
 早織は腕を組んだまま、しばらく「うー」とか「でも……」とか、絡んだ糸を解いたりまた絡ませたりしながら考えをまとめているみたいだった。
 しばらくしてようやく思考の糸はきれいに巻けたのか、パズルのラストピースがはまったように目を輝かせて拳をにぎった。


「よし! こうなったら全部変えてみる」