「ごめん、いじけて。なんか用事あったんでしょ」

わざわざ駅前の店までやってきて、対面で席についた途端駿は謝った。
俺は駿のこういうところが好きだった。
男らしい潔さと真面目さ。

「あはは」

「何笑ってんの。今度からはちゃんと言って帰ってよ」

もう家も近かったのに、遠回りしてここまで来た。
駿の機嫌を直すために。

急に態度が一転した駿の気持ちが手に取るようにわかって、思わず笑ってしまった。

「うん。わかった。美味しい?シェイク」

「うん。ありがとう」



「豊臣秀吉?」

「ブー。お前テスト大丈夫か」

日も落ちてきて薄暗くなった。
問題集を見ながらのろのろと家まで歩く。
バカにして、バカにされて、バカみたいに笑いながら歩く時間が何より楽しい。

「やばいよ、一個でも補習になったら部活できないのに。教えて」

「教えてつっても社会は暗記ゲーだろ」

「だとしても!今年は晴を甲子園に連れて行ってやんねーとな」

駿が気合を入れるようにその坊主頭を撫でながら言った。
俺はその仕草を眺めながら思った。

晴ちゃん、全然チャンスあるじゃないか。よかった。

「涼、今年も新聞部で記事にしてくれるだろ」

「うん。当たり前。活躍してね」

もうマンションはすぐそこだ。
俺は駿に笑いかけて問題集を閉じた。