駅までの道を駿とふたりで歩く。会話はなかった。

今日のことはなかなか忘れられないと思う。
何を話したかより、覚えていたいことがある。

隣を歩く駿の横顔。

いつもより狭い歩幅。

うっすら汚れた、見慣れたスニーカー。

白い息。

微かにする春の匂い。

駅に近づくにつれ現れる錆びたフェンス。

最近新しくなった信号機。

青に変わり、また俺たちは歩き出す。

「涼見て」

電車が来るまであと数分のホームで、駿はポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
カラーで印刷された光沢紙に見覚えがあった。

「これ俺のお守り」

野球部の県予選決勝を伝える、俺の新聞だった。
一面に駿の笑顔が輝く。

もうこの先の全てがどうでも良いと思える。
今、認めてもらえたから。
俺が一番大事に頑張ったものを、誰よりも大事な人が。

この先のことに確信はない。それでも良い。