「はあ…結局私がキューピッドってことね」

「本当にそんな結論に至ったか?」

駿が呆れたように笑うのを満足げに見届けて、晴は立ち上がった。

「友人代表挨拶はお任せください。邪魔者は退散します。バイバイまたね。
不貞行為はほどほどによ!」

明るくそんな捨て台詞を残して。

「おい晴!」

「バカじゃないの!」

俺たちに突っ込まれて嬉しそうに、手を振りながら部屋を出ていった。
昔から変わらないポニーテールがくるんと揺れた。

玄関の扉がバタンと閉まる音が聞こえて、真っ白になっていた頭が覚める。

隣の駿に目をやると、その瞬間唇に駿の唇が柔らかく重なる。
目を見開いたままの俺に、駿は笑いかけた。

「涼、ダダ漏れだってさ」

「やめろ」

駿の肩を押してそっぽを向く。
もう心底恥ずかしくて駿の顔は見られなかった。

「可愛すぎる」

俺の背中の後ろで駿は一人で笑い転げた。

「もう帰れよ」

俺が言うと、駿は俺の手を握った。
俺が振り解いてもまた握った。

「もうちょっといていい?」

「じゃあもうちょっとだけな!」

目を閉じて、もう一度口づけを交わした。
いつもはしんとした部屋の中、視界には駿しか映らなくて、それをじっと噛み締めた。

こんな今日があるならきっと、このままこの先もいられると信じたくなった。