夏休みが終わり、秋が来た。
風はすでに冷たく、カッターシャツ一枚では肌寒いくらいの季節だ。

志望校を決めた俺は塾に通い始めた。
駿は野球の推薦で地元の大学に行くと決めた。

あの夏祭りの日以来デートらしいことは全くできていない。
それでも駿が塾の外で時々俺の帰りを待っていてくれる日には駄弁りながら家路についた。
この関係は駿の頑張りで成り立っているように思えて申し訳なかった。
ずっと返す方法を探していた。
駿の18歳の誕生日が迫っていた。

「駿、免許取る?」

休み時間に英単語帳を開いて頭の中で覚えようと唱える。
それなのに教室の奥で駿がクラスメイトと話す声がどうしても気になる。

「うーん、取ろうかな」

「じゃあとったら乗せてよ」

「ああ、いいね。お前は取らないの」

こんなに近くにいるのに、遠く感じた。

一歩一歩踏みしめて歩くと、どろっとした沼に足が引き摺り込まれて振り解けない。
そのうちに駿はものすごいスピードで俺の隣からいなくなる。
階段を登って行く駿は俺に手を差し伸べるのに、どうしても後一ミリが届かない。
その差は紛れもなく、甲斐性のない俺のせいだ。

かぶりを振って単語帳に集中し直す。