夏祭りの日、俺たちは人混みに逆らって歩いた。

会場の反対へ反対へと、くだらない話をしながらひたすら歩いた。

湿度が高い空気が肌の出ている部分にまとわりついたが、不快ではなかった。
むしろこの空気を覚えておくのにちょうど良いとさえ思えた。

いつも通り駿が話して俺がそれに突っ込む。
人混みとは正反対の周囲ではお互いの声がよく聞こえた。

駿に触れたかった。
触れると心臓が爆発しそうなほど脈を打つのに、どこか安心する。

でも、どこかで見ているかもしれない周りの目が気になったし、何より駿の目が気になった。
触れたらどう思われてしまうだろうか。
ここが欧米とかだったらな。
そしたらいきなり抱きしめたって、ただの挨拶なのにな。
なんて馬鹿なことを考える。
駿と付き合ってから初めて考えることが増えた気がする。
その変化が嬉しかった。

「何考えてるの?」

「え?」

駿にふいに聞かれて聞き返す。

「なんかニコニコしてる」

「ここが外国だったらなって」

「なんだそれ」

今度は駿が俺にツッコミを入れて苦笑する番だった。

「ここも誰かにとっちゃ外国だろ」