透明な花束

「え、晴ちゃん今年行かないの」

「行くわけないよ。私が駿に振られたの忘れたの」

「そうだよね」

終業式の日、地元の夏祭りの話題が教室で出た。
近くにいた晴にそのことを尋ねたら、予想外の返答だった。

「今年は受験生だしね。涼ちゃん行きたいの?駿と2人で行けば」

毎年当然のように3人で行っていたから、当然今年もと思ってしまっていた。
高校受験の年だって3人で行った。

晴には俺と駿が付き合ったなんて言えなかった。

もう3人で行くことはないだろうと考えると、去年が最後の年だった。
なのに何を話したか、食べたか思い出せないのが悲しかった。
最後だとわかっていたらもっと味わっていたと思う。

去年はこんなこと思わなかった。
大事に思うものも失くすものも増えるのか。
大人になるってこういうことか。

夏祭り、駿は張り切って2人で行こうと言う気がした。
駿のことはだいたいわかる。

「今年晴ちゃん行かないって。どうする?2人で行く?」

帰り道、駿に聞くと晴と同じく意外な答えが返って来た。

「あー行ってもいいけど…涼人混み苦手でしょ。無理しなくていいよ」

「なんでバレてんの」

俺は人混みが苦手だった。
大嫌いというわけでもないし、好きな人と出かけられるならいいかなとさえ思っていた。
ただ帰宅後にどっと疲れることを思うと億劫に感じていたのもまた、少しは事実だ。

「なんでバレてないと思った」

「でも駿はそういうの好きでしょ」

「俺が好きなのは涼ですけど。涼が行きたいなら行く」

「行きたくは…ない。でも、駿には会いたい」

俺の知らない返事をされて、俺も知らなかった俺の本音を引きずり出された。

「オッケー会おう」

駿が白い歯を見せてニカっと笑う。

こんなふうにわかってくれる人は駿しかいない。
駿の隣は安心できた。
俺も駿にとってそうありたいと願った。