透明な花束

LHRが終わり帰ろうかと思っていたところ、手元にふと影ができた。
顔をあげたらその正体がわかった。

(りょう)ちゃん、あのさ」

(はる)だった。
晴とは3歳の頃に出会って以来の幼なじみで、
幼稚園、小学校、中学校ときてついには高校まで一緒の腐れ縁だ。
そんな腐った縁はもう一つあるのだけれど、今は一旦置いておく。
制服のスカートをくしゃりと握って、なんだかそわそわした彼女が囁く。
震えているのに決意がこもった声だった。

「私ね。駿(しゅん)に告白しようかと思ってるんだ」

驚いた。
驚いたのにそれを知られるのは恥ずかしかった。
小さい頃からなんでも共有してきたせいだろう。
なんでもわかっていることが当たり前の関係で、
知らないことがあることに驚いて、
でもそれを知られたくなくて、
でも友人としてここは驚いておきたい。

驚いてないふりがあった上の驚いたふりだ。
バカみたいだ。

「晴ちゃんって駿のこと好きだったんだ」

「うん。それでね、今日の帰り、よかったら2人にしてくれる?」

俺のそんなバカなムーブを、緊張し切った彼女は完全にスルーした。

「わかった。先に帰るよ。頑張って」

動いているのは俺の口なのに、俺のじゃないみたいに動いた。
自分で何を言っているのかはわからないけれど、とにかく応援しなければと思っていたみたいだ。

「持つべきものは涼ちゃんだね、ありがと」

晴はいつものポニーテールを翻してはにかんだ。

晴は駿が好きらしい。
俺は好きがわからない。
隣の席のやつと話しながら帰り支度をしている駿を見る。
大きな口を開けて笑っている。
駿が晴の告白を断るとは思えなかった。
だったら明日にはもう、2人は恋人同士なのか。
息を深く吸い込んだら、時間が止まったみたいだった。