「大丈夫なのかな、これから俺」

「大丈夫だろ」

大丈夫じゃない駿は想像できない。

物理的に大きくなった身体のせいでもあるかもしれない。
鍛えてなどいない文化部ヒョロヒョロの俺とは違って折れなさそうだ。

「テキトーか」

駿が呆れたように吹き出す。

「ごめん、でもいつもの駿ならそう言うよ」

「おおーじゃあ俺いつもの俺じゃないんだ。やっぱり落ち込んでんだな」

「夢だったんだから。いいんじゃないそれで」

少し間を置いて、駿が続く。

「準決勝の時に言ったこと、忘れてないよね」

無かったことになると思っていた?
そんなわけない。
押し込めたものが出たがっていて痛い。痛い。
殴られたみたいに痛い。
逃げたくても逃げられない。
なぜ逃げたいのかもわからない。

「冗談とかじゃないよ」

「つまり、俺と付き合いたいってこと?」

「そう。今日もここにいたら涼に会えると思った。
やっぱり来てくれて、やっぱり涼だわって」

「それが好きってことなの」

「わかんない。わかんないけど…うーん」

さっきまでこちらが萎縮するほど正直に言葉を紡いできたのに、突然言うのを躊躇う。
その緩急に焦りのような気持ちを覚える。

駿の考えに追いつけない。
置いていかれたくない。

「いや、やっぱやめとく。引かれそう」

「言えよ、らしくないな」

「お前が欲しくてたまらない」

「なん、つー」

真っ直ぐな瞳は嘘をついているようには見えなかった。

「ほらあ引いてんじゃん」

「引いてない。引いてないけど。
うん。わかった。お前の気持ちは」

こんな感覚は初めてだ。

準決勝の日から駿の気持ちが全くわかっていなかったわけでもないのに。
言葉として受け取るともうそれは想像ではなく本音だ。

純粋な本音が体中を駆け巡って、そのせいで心臓はうるさいし熱い。
夏の気温のせいではない。
もうそのせいにはできない。