一眼レフを構えて世界を覗く。
俺の目には映らないものが鮮明で不思議な感覚だ。

県予選の準決勝。
打席に立つ駿の姿、観客席から祈るようにシャッターを切り続けた。

「涼、見てたか」

「見てたよ。いいのか、こんなところにいて」

駿たちは勝った。
満面の笑みでチームメイトを讃える様子もカメラに収めた。
各塁側に散らばった他の新聞部員たちの撮った写真、試合の流れ、目立ったシーンを後ほど照らし合わせて記事にする。
想像するだけで胸が高鳴った。

「いいんだよ、ちょっとだけ」

試合が終わり閑散とした球場を無心で眺めていたら、日焼けした顔に汗と土を滲ませた駿がやって来た。

「ほら見て。これなんかいい写真でしょ。一面に使おうか」

隣に座った駿に撮ったばかりの写真を見せる。

「これも。躍動感あってよくない」

最大のチャンスでホームランを打った駿が手のひらに収まっている。
これを一面にドカンと載せたならレイアウトはどうしようか。
この写真たちを駿と共有できることが嬉しくて夢中で喋った。

「この笑顔もいい」

ホームまで帰りチームメイトと頷きあう笑顔も捉えていた。

「晴ちゃんもいい顔してたから撮っちゃった。
載せたら怒られそうだな」

ベンチから叫ぶ晴も俺の席から見えた。
周りを気にせず汗だくで応援する晴はかっこよくて思わずレンズが向いた。

「決勝の日は別の部活の試合に行かないといけなくて、見に行けないから残念だよ」

一眼レフに残った記録をくるくると回しながら俺は言った。
せっかくなら決勝戦も行きたかったが、この季節は他の部活も重要な大会が多い。

「涼、俺さ、涼のこと好きだよ」

「ん?え?ああ、ありがとう。急だな」

高校生になって急激についた筋肉で背筋がピンと伸びた駿の姿勢が横目に映った。
手元のカメラから目を離し駿を見る。

改まってそんなふうに言われるのは初めてかもしれない。

「そうじゃなくて。恋愛的な意味で」

え?

固まった俺にお構いなしで駿は真剣な眼差しを向けてくる。
俺は駿が言ったことが理解ができなくて、ただ見つめられる瞳から下に目を逸らした。

「じゃあ。考えといて」

スポーツバッグを担いで隣にスッと立ち上がる影が揺れる。

新聞部の後輩が声をかけに来てくれるまで、
呆然としたまま一人で座り続けていた。