透明な花束

新聞部では毎月全校生徒に配られる校内新聞を作成している。
決して多くはない部員で分担し、締め切りを守るのは簡単ではないが、
完成したものを手にするときは毎月格別の思いだ。
作成者の欄に書かれた自分の名前を見ると、自慢してまわりたい気持ちになる。
過去の俺が、書いたものを今の俺に嬉しそうに差し出してくる。
自分がすごい人間のようで、いつもより胸を張って歩ける。

今月の締切を無事に迎えた。
部室から覗く外はすでに日が落ちて真っ暗だった。
人がいない学校の空気は貴重だ。
せっかくだから目一杯吸い込んで、ゆっくり帰路につく。

校舎を出て少し歩くと、校門の近くに人影が見えた。
柱に背中を預けて座り込んでいる。

「おう」

こちらに手を振る仕草と声で駿だとわかった。

「びっくりした。何してんの」

「涼ちゃん待ってた。下駄箱見たら靴あったから」

駿は立ち上がって、ズボンについた砂埃をはらう。

「涼ちゃんやめろ。仲良しか。
なんか食って帰る?」

野球部の活動がある駿とは登下校を共にはしない。
待っていたのには違和感があって、何か頼りたいことでもあるのかと思い誘ってみる。

「何してたの?」

普段はあまりない話題に一瞬戸惑うが、こういう直球さも駿らしい。

「部活だよ」

「こんな時間まで?」

「そうだよ。新聞部も遅くなることだってあるよ」

「嘘だ。どんなに遅くなっても俺より遅くなることないだろ」

「そうだっけ」

夜暗くなるまで作業をするのは月に一度締切の日くらいだ。
駿が知らないのも無理はないし、わざわざ説明することでもない。

「なんか悩みあるなら聞くよ」

今日の駿は不思議だ。
なんでか鋭い。

ここ最近はずっと悩んでいた。
駿と晴の関係も気になったけれど、
進路について。
自分の将来について。

締切作業が終わったのに部室にぼうっと居座ったのはそのせいだった。

「いいよ。駿ちゃんは野球に集中しな」

「なんでそうなるんだよ…」

駿がぼそっと言った台詞は聞こえていないことにした。

「駿、アイス食って帰ろ」