観光と銘打った外出続きの日でも、普段の食生活はそう大きく変わらない。帰国まで残り一週間になっても、私はほぼ通常通りに近所のスーパーマーケットに食料品の買い物に来ていた。
空っぽのカゴを下げて自動ドアをくぐる。
日曜日の昼下がりのスーパーは、仕事から一時的な開放を受ける大人や子供を連れた家族で賑わっていた。日曜は四時に閉店するから、駆け込みという要素もあるのかもしれないけれど。
「ミルク、買っていい?」
「もちろん」
いつもと違うことがあるとしたら、今日はケイティが一緒にいるということ。
「OK。ありがとう」
そう言うと彼女は冷蔵の棚に向かおうとした。
同じ課程の学生同士、お互いの普段のスケジュールに大きなズレはないし、ゆとりがある時は一緒に同じメニューの夕食を何度もフラットで楽しんできた。
だけど思い返せばそういう時はいつも一人が二人分作って振る舞っていた。一緒に台所に立ったり材料を選んだりするような時間を過ごしたことは、意外なことに、なかった。
こうして一緒に買い物に来てるのは、最後の少しの時間くらい生活習慣も一緒に楽しまない? という提案があったから。ミルクという、ケイティにとっての生活必需品を買うのに私の確認が入ったのも、今日の買い物の代金は折半の予定だからだ。
「あ、でも重いもの買いすぎは気を付けて。いくら二人いるからって、力に限界はあるんだから」
「大丈夫、大丈夫。あ、舞子も日本に持って帰りたいものあれば、買っちゃって。お土産のお菓子とか」
「もう荷物は増やせないって」
すでにスーツケースは増殖しているのだ。ここ数日で整理した私物は結局、ケイティに教えてもらったトラベル用品の店で買った新しい一台の容量でやっと収まりそうなくらい。
一人で運ぶのも大変だしタクシーを手配しておきな、と言われ、それだって完了している。
なのに、現金なことに、私は店の奥にあるビスケットやチョコレート菓子が陳列された棚のことを思い浮かべていた。
どうするか。