「なんか、修学旅行みたいじゃない?」
と、歌織はまた笑った。
「歌織、余裕だね」
「ちょっと過酷なキャンプだと思えば、寧ろ楽しいよ」
「太市と京平、大丈夫かな」
伊代は歌織のように、この状況を割り切って楽しめなかった。心の中ではずっと、探索に出て行った二人のことが心配だった。連絡を取ろうにも電波は無く、探しに行こうにも電灯の無い状況で、何をすることも出来ないもどかしさがあった。
「大丈夫でしょ。特に京平は海外経験豊富だし、山で暮らしたこともあるらしいし、こんな田舎くらいでは困らないよ」
「でも、夜になっても戻って来ないなんて、もし怪我でもしていたら」
「どうせもう暗くて探しに行けないんだから。今は休んで、明日明るくなってから探しに行こう」
「歌織は楽観的すぎるよ。それに、女子二人で寝てしまうのは危険だと思う。寝込みを襲われたり、野生動物が近づいてきたら危ないし、こういう状況だと交代で起きている人がいるべきだと思う」
「あ、そうだよね」
伊代の心配性は、時に歌織に気付きを与える。どうしても伊代の知性に歌織は叶わない、それをわかった上で、歌織は伊代におとなしく従った。
目が冴えてしまっている伊代が先に見張りをし、数時間経ったら歌織が起きて見張りを交代することにした。
日中食糧を確保するために動き回っていた疲れが出たのか、『はじまりの城』と呼ばれた城に滞在していた時から換算して十数時間も寝ていなかったからなのか、歌織は叢の上でもぐっすりと眠りについた。
伊代は、今まで見たこともない程の満天の星空を眺め、一人夢想に耽った。
この世界について、そして『はじまりの城』について。伊代の推測が正しければ、ここは日本であっても遥か昔の時代であり、この世界に自分たちの帰る家や、見知った人に再会することは出来ない。
そうなれば、あの武者からの依頼を受けるべきだろう。それが今考えられる中で唯一の、家に帰る方法なのだ。
『民に日の出を見せむべし』
まだ民も、日の出も見ていない状況ではあるが、まずは明日目覚めたら、この世界の『日の出』を確認しなくてはならない。この世界において、『日の出』が意味することとは何か、そして『金色の宝物』や『戦をしてはならない』ことと、何の関係性があるのか。
四人の中でも特に日本史に強い伊代が、皆を導いていく必要がある。しかし現状、京平は独自に行動をしようとしているし、歌織は事の深刻さを理解していないようにも見える。
学生時代仲の良かった四人であっても、それぞれ持っている性格も経験も違うのだから、四人を一つにまとめチームとなって行動しなければならない。そのチーム統率力は、日頃から自信のない伊代には難しい。その事は伊代自身が強く理解していた。太市の力を借りなければならない、と夜空を仰ぎながら伊代は思った。