「お、二人とも。なんかいい顔してるじゃないか。もしかしてうまくまとまったか?」
 
 教室につくなり戸田にニヤリとされて、「えっ?」と恵介は内心焦ったが、一晟は全く表情を変えずに「まあな」とだけ答えた。
 その一晟の言葉にも恵介はぎょっとなる。
 
 ええ、もしかして戸田って俺たちの気持ちに気づいてた?
 え、いつから? ってか、本当に? とあわあわしている恵介に戸田が眼鏡のブリッジを上げ、ククッと喉の奥で笑う。
 
「シベリアンハスキーのあたりで決定打だな。……肝心の本人は気づいてなかったようだけど」
 
 などと言われしまい、今度こそ仰天する。
 
「い、一晟、どうする? 戸田が俺たちのことずっと気づいてたって……!」
「別にどうもしないだろ」
「そうそう、気にしすぎだ、葉山。今の時代、そうおかしくもないだろ」
 
 鞄をおいて授業の準備をし始めた一晟が「そういえば」とふと顔を上げた。
 
「いつまで苗字で呼んでるんだ。そろそろ俺たちのこと、下の名前で呼んでもいい頃だろ。真一」
「へ?」
 
 戸田がぎょっとした顔をして、それからみるみる真っ赤になった。
 
「お、俺の下の名前覚えてたのか、一晟~!」
「そりゃ覚えるだろ。こんなに一緒にいたら」
「恵介~! 一晟が、一晟が俺のこと真一って、真一って……!」
 
 うおおおと叫ぶ戸田をハグして恵介は笑った。
 
「良かったな、真一!」
「トリプル王子とかって呼ばれるのより、ずっと嬉しいかも俺……!」
 
 あたたかな日差しが降り注ぐ朝の教室が、いつもよりほんの少しだけ賑やかになり、きらきらと輝いて見えた。

 
 
 その後。
 思っていたより一晟に「人たらし」の才能があることに気付き、同じ大学に入るべくW大を本気で目指し始めた恵介と、それに触発された戸田、野々宮までもがW大を目指し始め、前代未聞のW大合格者をその高校が出すことになるのだが。
 
 それはまた、別の話である。