店を閉め終えたのは、夜の9時頃だった。睡眠不足だったことも理由の一つではあったけれど、今日は一日途絶えることなくお客さんが来てくれたこともあって疲労困憊で締め作業に時間がかかってしまった。

 今朝莉子と話していたように、ゆいレールに乗ろうと駅の方へと向かった。さすがに今日は歩けない。隣を歩いている莉子もそんな様子だった。ビールを飲む気力すらないのだと言う。

 だが、駅に着いた時、思わず「あー」と声が漏れていた。券売機の前には外国の団体客がおり、恐らく切符の買い方を駅員に尋ねているのだろうが、その辺りはごった返していた。異国の地では、普段当たり前のように出来ていたことすら分からなくなる。私も莉子も二人でよく海外に行っていた為にその気持ちはよく分かる。駅員があたふたとしていた為に教えてあげようか、と莉子をみると、「あの外人さんたちは駅員さんがいるから大丈夫だよ。今日はもう時間掛かりそうだし歩いて帰ろう」と既に踵を返していた為に、私はその背を追いかけた。

 今思えば、この時にその選択をしなければ、私達と美優が出会うことは無かったかもしれなかった。それに、美優自身の身に何かが起きていてもおかしくは無かった。考えたくはないが、それ程までにあの頃の美優は追い詰められていた。

 母はよく言った。運命だったのよ、と。

 私はずっとそんな母の言葉を否定してきたが、今は違う。

 あの日、私達がゆいレールに乗らないという選択を選んだのはきっと、私達と美優が出会う為の運命だったのだ。