有紗の勤める会社はゲーム会社ではあるが、他の会社からの仕事を請け負っている会社でもある。
 今回のオンラインミーティングの相手は、仕事の発注元だ。

 有紗たちは、会議室の画面とスピーカー越しから放たれるメテオフォールを盛大に浴びていた。

「ソウデスカー。仕様変更ですかー」

 有紗は荒ぶる思いを口に出してしまいそうなのをなんとか堪えたが、カタコトになってしまった。
 なお、他の同僚たちもカメラに渋面が映らないように、必死に耐えている。

『そうなんですよ。上の方がですね、このように仕様変更した方がより継続率があがると判断いたしまして』
「ソウナンデスネー。あのそうしますと、元々の実装締め切りが来週金曜日ですよね? まだ実装中の箇所もありますし? 今からですと五営業日しかありませんが、仕様変更分の工数は頂けるのでしょうか……?」
「次バージョンのリリース日は変更できませんので、何とか出来ないでしょうか」

 相手は問いかけるわけではなく、どうにかしろと言っているようである。

「ところで、新しい仕様はいつ出来ますか?」
「そうですね。今まだ担当者が必死に対応しておりまして、週末も挟みますし、来週の…………水曜日でしょうか?」
「えっ?」

 スピーカー越しの発言に、会議室が一斉にざわついた。

「水曜日に頂ける仕様の実装を、二日後の金曜日までに……ですか。現在実装中の機能も含めて……ですよね?」
「……そう……ですね……」

 さすがに無理があると気づいたのか、相手の歯切れが悪くなる。

「もう少し早く仕様確定出来ませんか? その、月曜日までですとか」

『週末挟むせいで水曜日になるってことは、つまり土日働けるってことですよね!』
『そもそも水曜日に出来たものを当日中に貰える保障はないと思います。絶対翌日になるのでは』
『つまり我々に残される時間は二十四時間……』
 などと、会議室にいた同僚が社内のチャットに次々と書き込んだ。
 相手もブラックだが、社内も相当に社畜である。

『…………確認いたします』
「今日中にお願いします」

 結論が保留になった会議が終わると、有紗は即効でオンラインミーティングの通話を切った。
 すると、会議室にいた同僚がぼそっと呟く。

「メテオフォール降ってきましたね……」

 説明しよう!
 ここで言うメテオフォールとは、日本の代表的かつ最悪な開発手法、メテオフォール型開発のことである!
 神の一声によって様々な仕様がひっくり返される事象で、有紗も度々上層部から放たれる無慈悲な光を浴びていた。

「イツモノコトダネー」
「白石さんが壊れたー!?」