みなさんこんにちは。アルジュエロです。
私たちは今、リベリアから街道沿いに三日ほど進んだ所にいます。途中の村や町などにも寄ってますので、実際には出発からは五日が経過していますが……。
「……暇、ね」
「……うん」
ご覧のように物凄い暇してます。
「ハハハ、そりゃ辺境に比べたらあきません。こっちはモンスターの強さ云々以前に、そもそもの数が少ないさかい。かわりに盗賊の類は多いんやけど……」
「これだけゾロゾロ連れてたら、襲ってこないでしょうね……」
はい、今私たちの馬車には二十人近くの小汚い男たちが繋がれています。
ほぼ引きずっている状態ですが、問題ありません。
実は、前の町から出てしばらくした所で団体さんがいらっしゃいまして。お金とか私の身体とか、果てはブランの身体まで要求なされたので、丁重におもてなししたのです。
こんな下衆ども、さっさと首をはねてやろうかと思ったのですが、エドが金になるというので仕方なく生かしてあげています。
「くそっ、弱そうな商人と女だけでカモだと思ったのに……」
と、このようにブツクサ言っている通り私たちはどう見てもカモがネギ背負ってる状態なので、羽虫避けにも役立ってもらってます。
移動速度は落ちますが、今の速度でももう鐘一個分、つまりは大体二時間ほどで着く距離まで来ていたので問題ありません。
まぁそういうわけでとっても暇なんです。
え? じゃあ一つ聞いていいかって?
ええ、いいですよ。……ふむ、心の声が敬語な理由?
それはですね、変えるのが面倒ということもあるのですが一番の理由はスイッチとして利用してるからですね。
私、戦闘になるとちょっとヤバいでしょう? ……迷いなく頷かれるのも複雑ですが、続けます。……思考を切り替えるのに戦闘時とは違う方がやりやすいし安全なんです。変えないと、うっかりイタズラに本気の反撃とかする事がありますから。
地球にいた頃は大丈夫だったのかですか?
ええ。こちらと違ってそんな頻繁にオンオフ切り替えてたわけじゃないので。
入れたらしばらく入れっぱなしですし、オフの時もそうです。意識を切り替えるだけで事足りましたね。
何やらほのぼの回になりつつありますが、どうやら着いたようです。エドとセレーナの故郷、ヒューズスロープに。……大きな坂。大坂。大阪の旧名? ……いえ、何でもないです。
門は何の問題もなく通過。門兵さんはどうやらエドとセレーナの知り合いだったようですが、まあどうでもいいですね。
この時に蛆虫どもはヒューズスロープの衛兵さんに引き渡します。特に手配はされてなかったようなので、――ホントに羽虫でしたね――追加報酬はなし。基本報酬である盗賊一人当たり銀貨一枚だけ頂きました。これに加え、アレらを奴隷として売り払った額から諸々の経費を抜いた額の八割も手に入ります。
町によっては商人との交渉も自分で行う必要があります。ここのように衛兵さんが代行してくれるところは手数料を取られたり額を誤魔化されたりする事もあるでしょうが、私は代行してもらえるなら是非して欲しいです。楽なので。
ともかく、やっと休めますね。
ヒューズスロープはリベリアに比べるとかなり小さい町になります。
外壁も比較的低く、魔物よりも人間を想定したつくりです。元々は魔物用だったのを改修した後は見られますが。
発展度合いはそこそこ。地球の歴史的に考えるとリベリアより古い町並みに見えますが、一応は町なので不便はあまりないくらいには発展してます。
元はリベリアを作るための物資の集積地であり、そこに商人たちが集まってできたという歴史を持っています。そのため区画整理はあまりされていません。
町並を見ながら馬車に揺れていると、セレーナが声をかけてきました。
「どうですか? 私たちの故郷は。リベリアに比べたら田舎でしょうが」
「これはこれでいいと思うわよ?」
「ふふ、ありがとうございます。どれくらい滞在される予定ですか?」
「うーん、良い依頼もあまり無さそうだし……。今日を含めて二日ってところね。二日後の朝に出発するわ。ブランもそれでいいかしら?」
「うん、姉様に任せる」
「そうですか。では、明日の晩はご馳走にしましょう。宿は是非私どもの実家に泊まっていってください」
「そらええな! どうです? アルジェはん」
「そうね、お邪魔することにするわ。ありがとう」
宿代が浮いてラッキーですね。
「ふふ、お礼を言うのはこっちです。お世話になりましたから」
私も馬車に乗せてもらって楽したんですがね。まあ堂々巡りになるので素直に受け取っておきましょう。
「どういたしまして。そんなに気にしなくていいんだけどね」
◆◇◆
さて、出発の朝です。
「お世話になったわね」
「……(ぺこり)」
「いえいえ、私たちも楽しかったです」
「そやな!」
いやー、セレーナの手料理は絶品でしたね。『星の波止場亭』にも負けませんよ。
なかなか楽しく過ごせたと思います。
盗賊を犯罪奴隷として売った代金も受け取りましたし、もうこの町でやることはありませんね。
そうそう、その代金の分配で一悶着ありましたね。
しばらく困らない程度には懐も温かいですし、討伐報酬は私がまるまる頂いていたので乗車賃+宿泊料として全額二人に渡そうとしたのですが、護衛代もあるしそもそも私がいなければ殺されていたと売り上げ全て渡そうとしてきました。ですので、そもそも馬車がなければあの人数を連れて行けませんでしたから、護衛代は盗賊の運賃で相殺と言えば、私たちのランク的にそれでは釣り合わないと言います。
それに下手にタダで護衛したとしたら前例が出来てしまって他の冒険者の迷惑になりますし、私たちも損することになりかねません。
これを言われると弱いです。正論ですから。
しかしお世話になったのも事実。妥協案として半々にしてやっと受け取ってくれました。
その後そのお金をそのままそっくり宿代として渡しましたが。
もちろん受け取ろうとしなかったんですが
『護衛として報酬を受け取らせたのですから、その護衛を商人がタダで家に泊めるのもまずいでしょう』
と言ったら何とも言えない顔で受け取ってくれましたよ。
今回は私の勝ちという事で。ふふふ。
「それじゃ、行くわね。王都へはこの道をまっすぐでいいんでしょう?」
「ええ。お気をつけて」
「おもろい土産話を期待しとりますわ。迷宮もありますさかい」
「それもだけど、王都で見られるっていう独特の家っていうのが楽しみね。何かあったら転移するから」
この国の成り立ちからすればあって当然のものです。楽しみですね!
え、何か気になる?
ふふふ、着いてからのお楽しみですよ!
「僕らもしばらくはこっちおるはずや」
「いつでも遊びにいらしてくださいね。ブランちゃんも」
「……うん」
ブランも大分二人と馴染んだようで良かったです。
最近気づいたのですが、ブランは私以外の前では感情が分かりづらいようなので。
まあその他の人は、私と一緒の時でもわからないというのですが。
では、いきましょうか。
ここからは徒歩……と〈飛行〉。一週間も歩けば着くらしいですよ。
というか、結局ほのぼの回でしたね。物語の主人公じゃあるまいし、トラブルばかり起きても困りますが、もう少しあってもいいんじゃないかなー? と思います。何も起きなさそうな感じですけどね。
…………フラグ立ちましたかね?