翌朝です。
昨日の反省を活かして今日はもっと軽めにしましょう。……ブランはまだ寝てるんですかね?
「ブラン、そろそろ起きなさい」
「…………む、り」
えーと、アハハハ。本当にやり過ぎたようです。〈光魔導〉で回復させる事もできますが……やめておきましょう。
以前にブランに説明したように光属性というのは正への“活性化”です。下手にすると筋肉のつき方が悪くなってしまいます。初めてでブランに使いたくありません。
それに、今後のためにも肉体的な痛みには慣れておいた方がいいでしょう。
「…………」
ツンっ
「〜〜〜〜〜〜っ!」
ピクピクしてたので、つい(ツイッ)
「姉様、ひど、い」
うぅ、ブランに涙目で睨まれてしまいました……。可愛い……。でもショック……。
「……ごめんなさい」
しかし、これでは今日の稽古はできませんね。
「ブラン、今日は休んでなさい。私は一人で適当に何か狩ってくる事にするわ」
「うぅ、ごめ、んなさ、い」
「いいのよ。正直やり過ぎたわ。私こそごめんなさい。それじゃあね」
「いって、らっしゃ、い」
まあブランの装備でかなりお金を使ったのでちょうどいいかもしれませんね。
それに……。
◆◇◆
門をでてしばらく歩き、〈創翼〉で翼を作ります。
向かうのは中層の奥。普段深層にいる魔物までも姿を現すことのある危険地帯です。
昨日久しぶりに刀を握ってから、下腹部の疼きが止まりません。前のように色々軽んじているわけではありませんが、私もジジイの孫だった、ということでしょう。
初心者講習からかなり魔力は増えました。
近接戦闘能力も上がっている、いえ、戻っているはずです。
結局人型以外と戦ったのは不意打ちの一角熊のみですが、それでも、強者と戦いたい。そう私の、既に別物になったはずの血が騒いでいるのです。
道中、自身のステータスを確認します。
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<ステータス>
名前:アルジュエロ・グラシア /F
種族:吸血族(人族)
年齢:18
スキル:
《身体スキル》
鑑定眼 言語適正 (魔力視) (神聖属性適性)→光属性適性 吸血lv6 高速再生lv7 大剣lv6 刀術lv8 体術lv7 淫乱lv5 威圧lv3 魅了lv3 隠密lv3 解体lv2 舞踏lv1 気配察知lv4 演算領域拡張lv5 高速演算lv2
《魔法スキル》
ストレージ 創翼lv6 飛行lv4 魔力操作lv9 火魔導lv4 水魔導lv6 土魔導lv5 風魔導lv6 光魔導lv5 闇魔導lv5 隠蔽lv MAX 身体強化“魔”lv4 魔力察知lv2 物質錬成lv5 付与lv3
称号:(転生者) 吸血族の真祖 (12/10^16の奇跡) 強き魂 (魔性の女) (副王の加護) 寂しい人 うっかり屋
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うん。かなり上がってる。
今なら、シンの動きが見える気がします。捉えるのはまだ無理でしょうが。
っと、この辺でいいでしょう。
〈気配察知〉と〈魔力察知〉を最大展開します。
感じた気配の多くはオークジェネラルクラス。つまりBランクです。
オーガジェネラルクラス以上の気配は……。いましたね。コイツにしましょう。
その気配にむけて、全力飛翔します。
ソイツは近づく私に気づいたようで、気配に殺気が混じりました。
不意打ちはしません。
〈威圧〉を発動しながらそれの正面に降り立ちます。
目の前にいるのはハイオークを超える巨大な虎。
尻尾まで入れるなら全長5mはある中型種です。
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〈アサルトタイガー〉A (健康)
強靭な脚力から生まれる高い俊敏性をもつ虎型魔物。
その牙は魔力を込められた妖精銀すら貫き、爪に纏う魔法毒は敵対者の自由を奪い地獄の業火で焼かれたような痛みをもたらす。
その姿はまさに威風堂々。多くの人間がその毛皮に夢を見、そして散っていった。
『災害種』
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強襲虎。普段は深層にいるやつです。
ふふふ、いいですね。その殺気。ゾクゾクします。ああ、思わず舌なめずりをしてしまいました。
「いいわ、あなた。私と踊りましょう?」
「GRURURUR!!」
剣を取り出し、艶やかに笑う私に、眼前の虎は殺気をより深くします。
先に動いたのは、どちらだったでしょうか。
互いのツメがぶつかり合い、硬質な音を立てます。
〈刀術〉に馴染み、斬れ味をましたはずの私の剣でも切り飛ばせない爪。
この虎は間違いなく、A級上位に迫る、災害というに相応しい!!
魔力でさらに強化された『真祖』の膂力をもってしても押し込まれるその脚力。打ち合うのは不利ですね。
ふっと力をぬき、爪をながします。
そのままガラ空きの胴の下へ潜り込んで、一閃。
「掠っただけですか。速いですね」
残念ながら胸元に浅い傷を作っただけでした。
「!?」
あの虎の回復力なら本来、すぐに塞がるはずの傷が塞がらない。闇属性によって再生能力を阻害しているからです。流石にマイナスまでもっていくのは無理でしたが。
しかしすぐに光属性で相殺されました。思ったより頭がまわるようです。
忌々しげな視線向ける虎。
ああ、いい……!!
心と身体が一致していく、戻っていくのを感じます!
さあ、ここからが本番ですよ。
『吸血族』の膂力で大剣を刀のように振り回します。
直接打ち合うのは危険と回避を選択する虎。
袈裟、逆袈裟、横薙ぎ。
互いに与えられるのは軽傷のみ。
それも再生能力によりすぐに塞がります。
状態異常も即座に治療。
お互いに決定打を与えられないまま周囲ばかりが破壊されていきます。
他の魔物たちが遠ざかっていくのを〈気配察知〉で感じます。
それほどに、激しい、しかし互角の戦い。
でも、ですね。私って、四足の獣相手というのは慣れてなかったんですよ。さっきまでは。
今はもう、慣れました。
「楽しかったわ。そろそろ終わりにしましょう」
これまで以上の速度で切り込みます。
虎は躱しますが、その先の地面から飛び出すのは土の槍です。
虎は魔力で防御力をあげ、貫かれる事は回避したようです。でも……
「ダメよ、足を止めちゃ。ふっ!」
「GRUAAAAAAA!」
私の〈刀術〉が、とうとう虎の片目を奪いました。
「逃がさないわ!」
距離を取ろうとする虎へと追撃します。
狙うのは首。
これは避けられる前提。本命は、潰した右目側からの魔法。
炎と光と闇の槍が虎を貫きます。
魔物はこれくらいじゃ死にません。
魔法でできた隙をついて脚を潰してあげます。
剣に魔力をながし、右前足の関節へと〈大剣〉を叩き込めば、
グシャァ
と嫌な音をたて、虎の右膝が砕けます。
そのまま虎の脚にそって剣を加速させ、頭の半分を斬り飛ばさんと逆袈裟。
「ちっ、音ね」
首を捻って致命傷は避けられましたが、右耳は奪いました。
諦めずを距離を取ろうとする虎を、敢えて行かせ、
(ドォォン!)
「GUR!」
その腹の下で水蒸気爆発をおこす。
一瞬伸びた滞空時間に、足元で魔力を爆発させ、肉薄。
そのまま倒れこみながら、風属性と火属性で雷を発生させ、神経の伝達速度を高める。
火属性と光属性でエネルギーを高め、速度を増し、その技名を呟いて呼吸を合わせます。
「――川上流 『迅雷』」
『川上』とは当て字。“厄災を佗う神”の名、『禍佗神』を隠すもの。その剣は厄災そのもの。
その禍は、虎の命を断ち、脳髄をぶちまけ、斬り飛ばさられた肉塊を消し飛ばしました。
「ふぅ。今ならAランク中位くらいは問題なさそうね。ピンキリらしいから上位は知らないけど」
呟きながら強襲虎を収納します。
ちなみに、最後の技は以前斬鉄をした時の抜刀状態からバージョンです。
さて、まだ太陽は天頂までたどり着いていません。
帰ってもいいんですが、ここまできて虎一頭狩っただけというのも微妙です。
…………、これからはブランがいるので、アレ、できないんですよね。
……やって、いきましょうか。
邪魔な木を収納し、〈土魔導〉で小屋(入り口なし、空気穴のみ)をつくり、〈隠密〉を〈付与〉し、〈風魔導〉で防音します。
仕上げに〈物質錬成〉してマットを作り、小屋の床にしけば……。
それではみなさん、また後でお会いしましょう(ニコニコ)。