さっそくベアルさんにハイオークで何か作ってもらえるようお願いしてみましょう! 今の時間ならまだ夕食の準備もしていないはずです。

「ベアルさん。ちょっといいですか?」
「……ああ」
「この間のスタンピートで手に入ったハイオークの肉で何か作って欲しいんです」
「……いいぞ」
「ありがとうございます! これでお願いします。あまったぶんは他の方に振舞ってあげてください」
「……いいのか?」
「ええ、かなり量がありますからね」

 何しろ三メートルもの巨体です。数百キロ単位でありますよ。

「……わかった。明日の夜、作る。こだわる」
「わかりました。楽しみにしてますね」

 ほんとうに楽しみですね!
 え? 最後の会話?
『こだわりたいから明日の夕食まで待って。他のお客さんの分もまとめて作った方がいいし』って言ってたから『楽しみに待ってる』って答えただけですよ?

 ついでにさっきのは機嫌が悪かったとかでは無くてベアルさんが無口なだけです。


◆◇◆
 さあギルドへ行きましょう!
 今夜はベアルさんこだわりのハイオーク料理ですからね! そりゃ張り切りますよ!



 ギルドは多くの冒険者でごった返しています。まだ外は薄暗いというのに皆さん早いですね。
 私はたまたま早く目が覚めただけです。ハイオークが楽しみだったからではありませんよ?

 この時間ならギリギリいい依頼も残ってますね。
 この『〈満月罌粟(フルムーンポピー)の種〉の納品』でも受けましょうか。比較的手に入りやすく、一ダースにつき銀貨三枚の報酬です。

 〈フルムーンポピーの種〉は〈魔力の種〉とも呼ばれており、〈マナポーション〉の原料となります。
 〈マナポーション〉はポーションの一種で、魔力の回復速度を早める効果があります。即効性のある〈ヒーリングポーション〉に比べると使いづらいように思われるかもしれません。しかし、休息状態でさえ魔力の回復は(個人差はありますが)非常に緩やかです。(いわん)や、戦闘時をや、です。

 スキルで回復を早めるものもありますが、本来スキルはそう簡単にはとれるものではありません。私は例外です。

 それに、もしスキルを持っていたとしても無用ではありません。〈マナポーション〉とスキルの効果は重複します。
 ちなみにですがこの種をそのまま食べても魔力が一上昇なんてしません。

 あとは、そうですね。実が薬として使えるそうなので、そちらも有れば採って帰るべきでしょう。何故か種とは別にあるようです。依頼は見当たりませんが、買い取ってくれるはずです。

 あ、薬って麻薬とかのクスリではありませんよ?
 確かに罌粟(ケシ)の実はアヘンの原材料になりますが、医薬品としても使われます。モルヒネという鎮痛剤を精製できるのです。
 花は満月の夜にしか咲かないので今回は放置ですね。


 依頼書を取ってリオラさんのいるカウンターに並びます。そこそこの人数がならんでますが、さすがはサブマス。列が進むのが周りよりも早いです。すぐに私の番がきます。

「おはよう。リオラさん」
「おはようございます。アルジェさん。お待たせしました。この間のスタンピードの貢献度報酬の見積もりが終わりました。アルジェさんへの報酬額は2000万L(ルル)ですね。白金貨と金貨のどちらがよろしいですか?」
「思ったより多いわね。白金貨でお願い」
「わかりました。アルジェさんは元凶のオーガジェネラルを討伐されてますし、討伐数自体も多いですからね。それで、オーガジェネラルの素材ですが……」
「いらないわ。というか、もらえるの?」
「ですよね。はい、スタンピードでAランク以上が討伐された場合は、討伐者に権利が発生します。そのまま素材として受け取るか、売却額の八割を受け取るか、ですね。残りの二割は手数料やらなんやらです」
「へぇ。まあいいわ。しばらくお金には困らないでしょうし、Aランクの素材じゃあ今の装備は超えられないわ」

 リオラさんは私の後ろにもう人がいない事を確認してからつづけます。

「そうですね、せいぜい希少級(レア)でしょうか? いえ、せいぜいというのもおかしな話ですね。十分強力ではありますが、比べるものが間違ってます」

 そういって苦笑いされてしまいました。私も同感なんですけどね。
 伝説になるほどの腕を持った職人に頼めば、秘宝級(ア^ティファクト)にはなるかもしれませんが、それでも今のドレスを超えることはありません。

「――はい。こちら貢献度報酬です。ご確認ください」

 リオラさんが話しながら準備していた、白金貨二枚が入っているだろう袋を渡してきました。一応確認しましたが、問題ありませんね。

「たしかに受け取ったわ」
「ところで、昇格試験、受けませんか?」
「昇格試験?」
「はい、今回のスタンピートで貢献度が十分なものとなりました。実力のほども問題ありません。むしろランクと合っていない事が問題ですね」
「なるほど、だからさっさとランクを上げて欲しいわけね。いいわ、受けましょう。あ、でもこれどうしようかしら?」


 手に持ったままだった依頼表を見せます。

「試験は準備もありますから明日以降になります。今日のところはそちらを受けても問題ありませんよ」
「わかったわ。それじゃあ手続きをお願い」
「はい。試験日程は決まり次第お伝えしますね」
「ええ。よろしくね」

 それでは〈フルムーンポピー〉の採取に行きましょうか。


◆◇◆
 先にステータスを確認しておきましょうか。あの戦いからまだ一度も見ていません。

 魂の定着率が五十パーセントになったのは『世界の声』が聞こえたので知っていますが、ステータスはどうなったでしょうね。

「ステータス!」

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<ステータス>
名前:アルジュエロ /F
種族:吸血族(人族)
年齢:18
スキル:
《身体スキル》
鑑定眼 言語適正 (魔力視) (神聖属性適性)→光属性適性 吸血lv5 高速再生lv6(1up) 大剣lv6(1up) 淫乱lv4 威圧lv3 魅了lv2 隠密lv1 解体lv2(new)
《魔法スキル》
ストレージ 創翼lv6 飛行lv4 魔力操作lv8(1up) 火魔導lv4 水魔導lv6 土魔導lv4 風魔導lv6 光魔導lv5 闇魔導lv5(1up) 隠蔽lv MAX 身体強化“魔”lv4(new)

称号:(転生者) 吸血族の真祖 (12/10^16の奇跡) 強き魂 (魔性の女) (副王の加護) 寂しい人 うっかり屋

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 いくつかのスキルが上がってます。新しいスキルもありますね。
 〈解体〉は先日とったものですね。これは既に紹介済みです。
 〈身体強化“魔”〉はオーガジェネラル戦の時に使った全身に魔力を纏う奴のことでしょう。最後になかなか無茶をしたので既にlv4になっています。“魔”となっていますから、おそらく《身体スキル》ver.もあるのでしょう。

 しかし、lv5を越えてからはさすがに上がりづらくなってきましたね。これはかなり早いペースになる筈なんですが、私みたいにズルせずにlv10まで上げる人ってどんなセンスしてるんでしょうね?
 〈魔力操作〉だけは伸びが未だにいいので、そちらの才能はあったのかもしれません。……【寂しい人】だからではないはずです、ええ。



 さて、そろそろいきましょう。ステータスを眺めてたら試したいこともできましたし。

◆◇◆
 森にはまだスタンピードの爪痕はしっかり残っています。(大爆発の跡とか)しかし魔物の死骸は全て回収済みであり、逃げていただろう魔物の気配もちらほら感じられるようになってきました。とはいえまだまだ少ないので、普段浅い所での採取をメインにしている低ランク冒険者でも中層近くまで行くことができそうです。事実それらしき冒険者たちを見かけました。


 今回の目的である〈フルムーンポピー〉は中層の入り口あたりにあるらしいです。
 未開地である魔境、『竜魔大樹海』ですが、表層でいきなり災害級のAランクが出てくるわけではありません。稀にBランクが出る程度ですからフルパーティのCランクであればそれほど危険はありません。

 これから行く中層でもAランクが出てくるのは稀です。いることはいますが大半はCランクからBランク。スタンピードの頃から比べて魔力はかなり伸びた今なら、例えBランクでも近づけることなく倒せるでしょう。近づかれたら少し苦しいですが、最悪でも死ぬ可能性は少ないと世紀末銀行マンも言っていました。
 Aランクは、オーガジェネラルのような人型を除いてまだ無理ですが、逃げるだけなら可能です。私の〈飛行〉より早く飛べる魔物はまだ出ないはずなので、飛んで逃げれば余裕です。

 しかし、油断は禁物です。実験を表層でやってから行きましょう。
 〈フルムーンポピー〉は『大樹海』では比較的見つけやすい上に期限はまだ先ですから、生き残るための手札を増やすことを優先したいので。

 匂いと音に注意しながら森を歩いていると、森の植物や土とは異なる匂いを感じました。
私は慎重に匂いの元へ近づきます。〈隠密〉を発動することも忘れません。

 そこにいたのは一頭の大きな熊。体毛は黒く、頭には角が生えています。

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〈ホーンベア〉C (健康)
黒い体毛と一本の角をもつ中級下位の熊の魔物。
その豪腕は岩をくだき、その爪は鉄をも引き裂く。その硬く、生半可な剣で傷つけることは難しい。中堅に上がってすぐの冒険者が好んでレザーアーマーの素材にする。
ハチミツが大好物。
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 ホーンベアですか。なにやら辺りを見回していますが、まだ気づかれてはいません。
〈隠密lv1〉でもギリギリ通じたようです。Cランクのようですし、実験には好都合ですね。

  隠密状態のまま解体用のナイフを取り出し、左手首の動脈を傷つけます。 流れ出た血は、しかし重力に逆らって宙に浮いています。
 そして、その血は私の意思に従って龍を型どり、一角熊《ホーンベア》へと襲い掛かりました。
 哀れな熊が自分めがけて飛来する物に気づいた次の瞬間には、真紅の龍はその喉を食い破り絶命させていました。

 傷は〈高速再生〉ですぐに塞いでいます。痛みはありましたが、失血死の心配はありません。

 私が使ったのは、〈吸血〉。一般的には他の生物の血を吸い、自らの力とする為のスキルです。

 スキルの使い方というのは本来本能的に理解す(わか)るものです。『種族固有スキル』ならなおさらのこと。
 そうは言っても限界があります。その深奥は能動的にしか知り得るものではなく、気の遠くなるほどの試行錯誤を繰り返す必要があります。
 しかし〈鑑定眼〉によって私はその能力(ちから)を直接知る、いえ、視ることが出来るようになりました。魔力が上がった為でしょう。つい先ほど気づいた話になります。

 そしてその能力とは、[血液操作]。
 操れる量や速度、距離は〈吸血〉のレベルに依存します。今のレベルなら一リットルの血液を半径二十メートルの範囲内で操れます。速度は正確にはわかりませんが、そこそこの速さでした。

 威力は十分にありますが、わざわざ痛い思いをしてまで使うものではありません。魔法の方が高威力ですし。まあ戦いの中で傷はできるでしょうから、その血を使って不意打ちするという使い方をするくらいでしょうかね。

 ……いえ、口などから侵入させて内側から攻撃という使い方もありますね。
 意外と使えそうですね。練習しておきましょう。

 さて、実験はこれくらいにして〈フルムーンポピー〉を取りに行きましょうかね。
 ホーンベアの解体はまたにしましょう。この間買った図鑑をまだしっかり読めていないので。

 その後私は中層入り口までいき、〈フルムーンポピーの種〉を十ダースと実を適当に採取した後は〈飛行〉を使って返りました。売却高は種が三万L(ルル)、実が五千L(ルル)となりました。依頼であったことを差し引いても単価は種の方が高いのは需要の差ですかね。

 明日は昇格試験ですし、今日は早めに休みましょうか。
 ……やはりアレはしてから寝ましょう。