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「お、きたか!」

 扉を開けてまず目に入ってきたのは、二本の角をもった美青年。

「うげ、あなたは」
「アルジェさん、女性が『うげ』というのはどうかと思いますよ」
「そう言われても、ねぇ? それはそうと、なんであなたがいるのよ」
「はっはっは! そう警戒するな。俺が呼んだからに決まっているだろ?」

 そりゃ警戒しますよ。スタンピートの時オーガ系の魔物と間違えて斬りかかってしまったんですから。ちなみに物騒な怒鳴り声の主です。

「なんであなたが私を呼ぶのよ?」
「だから警戒するなといってるだろ。別に怒っちゃいねぇよ。あぁいう極限状態かつ相手が鬼系の魔物だと時々ある事だ」
「ふふふ、そうですよアルジェさん。別に気にする必要はありません。どうせギルマスなんてちょっとやそっとじゃ死にません。むしろ一回死にませんかね?」
「いや、その扱いはどうなのよ……てギルマス?」
「えぇギルマスです」

 ギルマスって、ギルドマスターですよね? 一番偉い人ですよね?

 私そんな人に斬りかかってしまったのだけど……。まぁ軽く避けられてそのまま投げ飛ばされましたけど。

 というかリオラさんもそんなこと言って……大丈夫そうですね。めちゃくちゃ笑ってます。

 どころか、それはおもしろいとかいってますよ。
 なんとも豪快、というかギルマスを適当に扱うリオラさんこそ何者?

「まぁそういうことだ。納得したか?」
「えぇ、とりあえずは」
「ちなみにリオラはサブマスだぞ?」
「え!?」
「ふふふ、驚きました?隠してた訳ではないんですよ? 言う必要もないことでしたから」

 むぅ、教えてくれてもいいと思うんですが。

「まあいいわ。それで、話って何なのよ?」
「いや何、話してみたかっただけだ。お前、アルジュエロだったか? 【転生者】らしいな?」
「アルジェでいいわ。えぇ、確かに【転生者】ね。リオラさんからきいたの?」
「ああそうだ。おっと安心しろよ?他に知ってる奴はいない。リオラにしても立場上報告の義務があっただけだしな」
「そのくらいわかってるわよ」
「はっはっは!それならよかった。そうだ!アルジェの剣、みせてくれないか?あの時は一瞬だったがかなりの業物だろう?」

 まあ確かにアレはきになりますよね?

「別にいいけど、それより自己紹介くらいしたらどうなの? 私はあなたがギルマスってことしか知らないわ。それもたまたま知れただけ」
「ん? してなかったか? それは悪かった。俺はシュテン。見ての通り鬼神の系譜だな。種族的には『妖鬼族(オニ)』になる。現役のSランク冒険者だ。」

 Sランク、納得ですね。伝説級(レジェンダリー)の大剣の不意打ちを、魔力を纏っていたとはいえ素手で逸らしてましたから。普通なら触れただけで腕がぐちゃぐちゃになります。
 Sランクって世界でも十人いるかどうからしいですが、納得ですね。

 ちなみに『鬼神の系譜』というのは彼のように鬼の角をもった人間種族の総称です。彼の種族である『妖鬼族』の他に『鬼人族』と『鬼神族』がいます。
 力関係で言えば鬼人<妖鬼<<鬼神です。

 また「系譜」とあるように同じ祖をもちますので、稀にですが力を蓄えた下位種族が上位種族に至ることがあります。

 ちなみに私の種族である『吸血族』も『吸血鬼』と「鬼」をつけて呼ばれることがありますが、鬼神の系譜にはありません。ついでに“吸血鬼”は『吸血族』にとっては蔑称です。絶対に言ってはなりません。
 一応つながりはあるらしいですが、ほとんど別物です。

 なんでもある鬼神の一柱が妊娠中に大量の闇の魔力を浴びて産んだ子が、突然変異をおこして誕生した種族だとか。適性スキルがないと吸血族が光魔法を使えない理由ですね。性質が闇に偏って生まれたということですから当然です。

 その子が始祖となり、人族との間に産んだ子が真祖となった。
 真祖が長い年月をかけてその血を薄れさせていった結果今の『吸血族』となり、先祖返りとして時たま真祖が生まれるといった感じです。

 では血を薄れさせなければ真祖が生まれるのではないかという問いの答えは「YES」となります。
 それを行なっているのが現吸血族の王家と大貴族、というわけですね。

 ですので先程の鬼神の系譜にあてはめるなら、
 
 ノーマル吸血族=鬼人族
 吸血族の真祖=妖鬼族
 吸血族の始祖=鬼神族

となりますね。まぁ『吸血族』はただ強くなるだけでは基本進化しませんけど。