◆◇◆
 時間は遡る。

「行きました、か」

 そこは、どこにも繋がっていて、どこにも繋がっていない空間。
 先ほどまで弘人の魂が存在した空間。

 ズルズルと、聞こえるはずのない、何かを引きずっているような音がした。

「あれがそうですか」

 弘人の魂があった虚空を見つめる管理者にかけられた、侮蔑を含んだ声。

「はい。そうなります」

 振り返った管理者の視線の先に居たのは、色黒の紳士であった。
 管理者ですら、美麗であるはずのその顔をしっかりと認識できない紳士は続ける。

「なるほど、確かに相応しいでしょう。相応しいからこそ、賭けになるとは思えませんね」

 どこまでも紳士は侮辱の色を隠さない。

「しかしまあ、だからこそ好都合です。せいぜい楽しませていただきましょうか」

 紳士が何を侮辱しているか、管理者は分かっている。しかしそのことについては何も言わない。何も言えない。

 ただ、一つ。

「……私は、あなたの思うようになるとは思いません」
「ほぉ……。まあよろしいでしょう。私はそろそろ去ります」

 そう言って紳士は、虚空に消えた。