ある、いつもと変わらないよく晴れた一日の話。

 彼女はいつも通り受付嬢の格好をしてカウンターに立っていた。
 受付嬢として、冒険者一人一人を観察する。有事の際などに判断基準となったり、普段の姿からまわしても良い依頼を判断できたりと実益がないわけではない。が、しかしそれは彼女の趣味である部分が大きかった。

「サブマスター、今入って来た女性、新顔です」

 隣で書類を整理していた犬の獣人の受付嬢が彼女に伝える。

「そうみたいね。ありがとう」

 何も知らない人が聞いたら、だからどうしたと思うかもしれない。
 しかし、声の届く範囲、つまりはカウンターの内側にいたギルド職員で知らないものはいない。安全のため初めて見る者や、知っている顔でも怪しい挙動をする者には<鑑定>をかける事になっている事を。

(<鑑定>)

 彼女は自分の方へ真っ直ぐ向かってやってくる女性にその高レベルの<鑑定>スキルをむける。

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<ステータス>
名前:no_name /F
種族:吸血族
年齢:18
スキル:
《身体スキル》
鑑定眼 言語適正 魔力視 神聖属性適性 吸血lv5 高速再生lv3 
《魔法スキル》
ストレージ 創翼lv5 飛行lv3 隠蔽lvMAX

称号:転生者 吸血族の真祖 12/10^16のキセキ 強き魂 副王の加護 寂しい人

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 見えたものは、いつもと同じ日常を侵してしまうものだった。

 (『吸血族』……。なるほど、真祖ね。18歳か。
名前は隠蔽されてる? いや、私の<鑑定>を抜けるなんて……。あ、<隠蔽>がlvMAX。信じられないわ……。<神聖属性適性>のある『人族』以外の種族なんて初めて見た。聖国にばれたら煩そうね。
それから、<鑑定眼>に……<魔力視>? これはそもそも知らない。そんなスキル聞いたこともない。
他は真祖としては平均的? いえ、この歳で、しかも<ストレージ>持ちだから優秀なんでしょう。
 しかし、なんでそんな子がここに?
 『真祖』なら上級貴族か、王族のはず……。
 ――え!? 【転生者】!? 聞いてないわよ!?
 それに【副王の加護】って、タイトゥース様の加護!?
 いけない、一瞬表情にだしちゃったわ。
 それにしても、ヤバイわ、この子。道理で見たことも無いスキルがあるわけね。
 他にも気になる称号はあるけど……。
 ともかく、悪い子ではなさそう。【寂しい人】のようだし……)

「すみません、ギルドに登録したいのですが」

 彼女の気づかぬ間に女性はカウンターまでたどり着いていた。

(考えすぎてたわね。対応しなくちゃ。)
「登録ですね。それではこちらに必要事項の記入をお願いします。書きたくないことは書かれなくてもかまいませんが、太枠だけは必ずおねがいします」

 思考から意識を転生者の女性に戻した彼女は、マニュアル通りのセリフを言いつつペンと申し込み用紙を渡す。

 彼女は女性が名前をとばし、太枠とそうではないいくつかの欄にすらすらと、綺麗な字で書いていくのを見ていたが、やはり名前の欄で考え込んでしまった。

 しばらく後に女性が書き込んだ名は『アルジュエロ』。

「――はい、問題ありません。珍しいスキルをお持ちですね。冒険者ならかなり役立ちますよ。それと、名前は偽名で登録する方は多いですよ」

 彼女はその後も丁寧に対応し、女性、アルジュエロを見送る。

 ふと、<鑑定>を発動すると、そこには『アルジュエロ』の名が刻まれたステータスが見えた。

(あら、まだ名前がないだけだったのね。余計な事を言ったわ)

「お疲れ様です。サブマスター。彼女、問題なかったようですね。……どうしました?」
「いえ、何でもないわ」

 その声は、どこか弾んでいるように犬の受付嬢の耳には聞こえたのだった。