「「風よ、見えざる刃となりて敵を切り裂け![風斬≪エアカッター》]!」」
「「水よ、砲弾となりて敵を砕け![水球《アクアボール》]!」」
「「土よ、槍となりて敵を貫け![土槍《クレイランス》]!」」

 ……なにあの恥ずかしいやつ。詠唱?
 私詠唱なんかしてないですけど。
 ああ、さっきリオラさんに魔導スキルのこと聞きそびれてました。これは早く聞いておいた方がよさそうですね。スタンピードが収まったら速攻行きましょう。
 ……いや、しかし、詠唱、か。いくら私が【寂しい人】でも……いえ、寂しい人ではありませんが。

「おら! 魔法使いども! そろそろ接敵だ! 味方がいないところにぶち込むかサポートにまわれ!」

 なんて悩んでいたら、もうすぐそばまで来ているようです。
 私も〈母なる塔の剣〉を構えます。
 剣を出した瞬間周りの数人が身構えました。
 まぁ、そうなりますよね。
 彼らもすぐ意識を鬼どもに向けたのでこちらも切り替えます。

「おし、お前ら、行くぞ! 突撃だ!」

 先程から何度も聞こえる怒鳴り声に従って突撃します。
 最初にかなりの数を倒したとはいえまだ敵は大半がC以下。まとめてなぎ払います。

 技術も何もない大振りの一撃。
 しかしそれで鬼どもは纏めて切り裂かれ、直接触れていない低ランクの鬼も吹き飛びます。
 次から次へと来る鬼どもに恐怖はなく、ただひたすらにその武器を振り上げているようです。
 剣の力は使いません。ただひたすら、切って切って切って切りまくる。

 気がつくと私は笑っていました。

「アハハハ! もっとよ! もっと来なさい! その醜い頭を切り飛ばしてあげる!」

 血の匂いが、かつての、川上弘人だった頃の私を呼び覚まします。いえ、それだけではありませんね。戦闘種族でもあった『吸血族』の本能ですか。

 ――足りない。まだまだ切り足りない! あぁ、こんな雑魚どもじゃあ満足できない!

 私は羽を広げ、群の後方へ飛びます。
 本能が強者の固まる位置へと私自身をいざないます。

 鬼の死角、直上からせまり、一太刀。
 着地のついでに羽を形成していた魔力を爆発させ、周りの鬼どもを吹き飛ばします。

 私もダメージをくらいますが、瞬きする間に完治する程度のかすり傷。

 混乱しながらも襲い来る鬼どもをひたすら叩き切ります。

 このあたりになると殆どがエリートやハイ、オーガ以外のジェネラル種も混じっています。

 彼らに囲まれては流石に傷を負いますが、殆どはドレスが衝撃以外無効化します。
 首から上だけ守っていれば問題ありません。


「アハハ! アハハハハ!」

 一時間は切り続けたでしょうか? 興奮しきっているはずなのに、冷静なままでいる一部の思考が考えます。
 そろそろ、使ってみよう、と。

 使い方は、手に取った時理解しました。
 一度周囲の敵を薙ぎ払ってから、私はキーワードを叫びます。

「『全ては私の子。私の愛を受けなさい!』」

 その瞬間、剣は禍々しいオーラを放ちます。極度の興奮状態にある鬼どもでさえ、その異様な気配に一瞬動きを止めてしまうような、そんなオーラです。
 此れ幸いにと剣の届く範囲にいた数体のオークジェネラルの頭を、その脈打つ異形の剣で、切り飛ばします。

「さあ、生まれていらっしゃい」

 私の言葉に反応するかのように動き出した死肉は、集まり、混ざり、()()します。
 ――異形な肉塊の怪物として。

「さあ、私の可愛い子。ご飯にしましょう。周りのお肉を食べない」

 恍惚としたまま、私は命令を下します。
 怪物はまず、すぐ後ろにいたかつての同胞を押しつぶし、喰らいました。続いてその隣の同格だったものを、部下をそして親族兄弟まで、周囲にいた全ての元同胞を喰らいます。
 知能なき異形は、ただ母の言葉通り周りにある肉を喰らいます。
 そして数分後、残ったのは異形と私のみ。

 街の方ではまだ戦いが続いている。そう私の耳と鼻が判断し、加勢に向かおうとした時でした。