そんな声が聞こえたのは、依頼書の貼ってあるボード――クエストボードというらしいです。これ、言い始めたのは黒髪黒目の異邦人らしいんですよね……――から離れ、ギルドから出ようとした時でした。
声の主は、今しがた入り口から駆け込んできたボロボロの男女。さすがに私への視線もなくなり、その場の全員が彼らに注目します。
エルフの男性と、おそらく猫の獣人。どちらも森での行動やスピードに優れた種族です。
装備も軽装で、音がなる金属装備は見当たりません。
二人とも斥候職でしょう。
となると、彼らを先に行かせ、魔物を食い止めているだろうパーティメンバーがいることが予想されます。
声が聞こえてすぐに駆け寄ったギルド職員の方が依頼を見ていた私たちに向かって叫びます。
「鬼系種族のスタンピードが発生しました! これより緊急依頼を発令します! Dランク以上は強制です!」
どうやら私も強制参加みたいですね。
「確認された最高ランクはオーガジェネラルのA! 冒険者の皆さんは直ちに北門へ向かってください!」
しかし鬼系ですか。それならちょうどいいです。魔物との初戦闘がまさかスタンピートになるとは思っていませんでしたが。
「今仲間が時間を稼いでいるが、時間はさほどない! 表層の半ばで遭遇した。急いでくれ!」
さきほどのエルフの男が叫びます。
それを聞いて私たちは急いで北門へ向かいました。
◆◇◆
門につくと、ボロボロになった鎧のドワーフらしき人物や魔法使いのような格好をした人族など、先ほどの彼らのパーティメンバーらしき人たちが門を通るところでした。
検問待ちだったと思われる旅人達は予想通り外側の門をくぐったところにある広場に待機させられています。
「冒険者たちが到着した! 道を開けてくれ!」
門兵の一人が叫び、人垣が左右に分かれます。そこを走り抜ける私たちが見たのは、森の奥から押し寄せる鬼たちでした。