その言葉が言い終わるかどうかという瞬間に一気に間合いを詰めます。
まずはただ詰める。特殊な歩法は使わない。そして、斬り下ろす。
広い訓練場に車両事故が起きた時にような爆音が響き渡ります。
ちょっと強かったかと一瞬焦った私は、ラウンドシールドで大剣を受け止め、ニヤリと笑う彼を見てすぐに距離を取りました。
……なるほど、この世界ではただの『人族』でさえこれほどの力を持ちますか。
これなら全力で打ち込んでも平気そうです。
今度はしっかりと相手の呼吸を読み、<縮地>で間合いを詰めます。
そして、袈裟斬り。
先程以上の力を込められていることに勘付いたのか、彼は盾で受け止めずに受け流すことを選びました。
前世でなら確実に体ごと持っていかれただろうタイミングで剣を止め、切り上げ気味の横なぎを叩き込みます。
今度は右手に持った戦斧でこれを受流し、シールドバッシュ。
避けきれないですね。
速度が乗る前に、肩からぶつかってダメージを減らします。
しかしここは彼の間合い。
衝撃をさらに背後へ逃しつつ後退……
――する前に目の前に戦斧についた突起の先が。
慌てて顔を逸らし、突きを避けます。
大剣を振って強引に距離をとらせ、仕切り直しです。
ここまで中段に構えていた剣を、下段へうつします。
そして神経を研ぎ澄まし、睨み合います。
すると、彼は私の初撃を受け止めた時同様、ニヤリと笑って――次の瞬間私の首元には鈍く輝く刃がありました。
まったく見えませんでした。呼吸を外されたわけではなく、ただ純粋に、速かった。
今朝検証を行った時の余裕など吹き飛びましたね。
「やるな、嬢ちゃん。その見た目でその力、もしかして、『人族』じゃねえのか?」
「ええ、『吸血族』の『真祖』です」
「ほぉ、珍しい。よくみりゃ耳が少し尖ってるな。嬢ちゃんなら森の中層くらいは平気だろう。ただ、さっきのは人相手の動きだな? 魔物相手の動きに慣れるまでは表層にしとけ。おっと、お前らはもちろんまだ表層だからな」
ここでいう森とはもちろん『竜魔大樹海』のことです。
今の私は女ですので何か言われるかと思ったのですが、そんな気配はありませんね。むしろ脳筋からは尊敬の眼差しを感じる……。
「ん? 『真祖』なら歳とらないんだったか? もしかして嬢ちゃんじゃないのか?」
「いえ、まだ18なので嬢ちゃんで構いません」
「そりゃよかった。あぁそれと、冒険者としてやっていくなら敬語はやめた方がいい。舐められて面倒ごとを引き寄せるぞ」
む!? それは嫌です。忠告に従っておきましょう。
「わかったわ」
やはり違和感が……。そのうち慣れますかね。