「次元の歪みを確認。…修正完了。
……第4エリア、M78地区にて超新星爆発を確認。」

 何もない場所で声が響く。

「次元壁の摩耗を確認。修復用ルートを接続。…完了。終了予想時刻、第三世界時間32年3ヶ月05秒後。通常作業へ移行。」

 機械的な、感情を感じさせない声。
 何億年、何兆年と、もはや人には理解できない時間、繰り返されて来た。
 そこにわずかな変化がもたらされる。

「…イレギュラー発生。判断を仰ぎます。………了解。対処に向かいます。」

『声』が何者かへ話しかけた後、その声は消えた。

◆◇◆
 
「やっと終わった…」

 高校から帰ってきた少年、川上弘人(かわかみひろと)は疲れきった声を出し自宅の玄関で靴を脱ぐ。
 推薦で大学の合格が決まっていた彼はしかし、高校側の都合で卒業式後の二次試験対策授業に出席していたのだ。

 冬場の乾燥した怜悧な空気が満ち、穏やかな日差しが降り注ぐ。言ってしまえばいつもと変わらない放課後だ。
 弘人は気づかない。近づいてくる、いつもと違う日々の気配に。

◆◇◆

  高校から帰った俺は、いつも通り自室でネット小説を読んでいた。冬の寒さから逃れるために付けたエアコンは、同時に部屋の湿度を奪っていく。喉の渇きを感じて、お茶でも取りに行こうかと部屋のドアを開けようとした――