【#7】
12月半ばのある日。
俺は、結音と一緒にある所へ行くことにした。
ある所とは、夏音が眠る場所。
今日は、夏音の月命日だ。
毎年ひとりでも必ず墓参りに行っているけれど、今年は一緒に行ってほしい人ができた。
隣で、結音が切なそうな苦しそうな表情で空を見上げている。
夏音がいなくなるまでは、明日が来ることは当たり前だと思ってた。
だから、言い訳をして、本当は今できることを先延ばしにしてきた。
もう8年前と同じ後悔はしたくない。
今できることは、今やる。
今伝えたいことは、今伝える。
「だから、決めたよ。俺は、生きている限り音楽を続けていく」
「……え?」
「これからも、結音と一緒に音楽活動を続けていきたい」
そう。これが、今の俺の正直な気持ちだから。
そして夏音が見守る中、結音と音楽を続けるという約束の握手を交わした。
夏音。俺は、確かにきみのことが心から好きだった。
夏音以上に好きになれる人なんていない。
大切だと思える人なんていない。
ずっとそう思ってきた。
でも、ごめんな。
今、俺には、一緒に音楽活動をして生きていきたいと思ってる人がいる。
これからもそばにいて支えていきたい、大切にしたいと思ってる人がいる。
彼女は、夏音と同じように何よりも歌うことを愛している。
だからこそ、一緒にいたいと思ったんだ。
夏音なら、その気持ちわかってくれるよな?
短い時間だったけど、俺は君を幸せに出来ただろうか?
俺は幸せだったよ。
夏音に出会えて、夏音に恋をして、一緒に音楽を学べて、幸せだった。
今まで本当にありがとう。
そう心の中で想った時、優しい風が吹いて―
“あ り が と う”
夏音がそう言って微笑んでくれたような気がした。
* * *
12月24日―クリスマス・イブ。
今日は都内の教会で結音のクリスマス・コンサートに出演している。
結音の透き通る歌声が、教会という神聖な場所で厳かに響く。
真っ白なドレスを着て歌う結音は、まるで天使のようだ。
今日のコンサートは、クリスマスにピッタリの讃美歌や、クリスマスソングを中心にしたセットリスト。
そして結音のオリジナル・ソングは、結音が今一番歌いたい歌だと言っていた2曲。
その2曲の演奏が終わって、いよいよ次がラスト・ソングだ。
「今日はクリスマス・イブなので、スペシャルバージョンでお届けします」
MCのあと、結音とアイコンタクトをして、ギターを弾き始める。
結音と出会うきっかけになった始まりの曲。
結音がどこまでも透き通るような唯一無二の声で、メロディーを紡いでいく。
伝えたい想いがある。
聴いてほしい歌がある。
だから、俺はここにいる。
これからもずっと音楽を続けていく。
大切な人と一緒に―。