【#9】
「――今週第1位に輝いたのは、鈴原 結音さんの『虹色の世界』です!」
司会の女性アナウンサーが紹介すると、スタジオから拍手が起きた。
現在、生放送の歌番組 “MUSIC PARADISE” に出演中。
年明けに発売された新曲『虹色の世界』がドラマの主題歌に抜擢されて、なんと初めて週間ランキングで1位を獲得することが出来たんだ。
「初の1位獲得と言うことで、おめでとうございます」
「ありがとうございます。応援して下さっている皆さんのおかげです」
緊張して固まっている私の横で、由弦さんは落ち着いて堂々と司会者の質問に答えている。
「初めての生放送番組出演ということですが、鈴原さんいかがですか?」
「とても緊張していますが、心を込めて歌いたいと思います」
震える声を必死に隠してなんとかそう答えると、
「それではスタンバイお願いします」
司会者に案内されて、私は由弦さんと一緒にステージへ移動した。
「大丈夫、落ち着いて、結音らしく歌えばいい」
スタンバイ中、由弦さんがそっと声をかけてくれた。
その一言で、スッと緊張が和らいでいく。
「それでは歌って頂きましょう。鈴原 結音さんで『虹色の世界』」
曲紹介のあと、由弦さんがギターでイントロを弾き始めた。
春風にようにあたたかくて優しいメロディー。
その音にそっと寄り添うように、言葉を紡ぐ。
ひとつひとつ噛みしめるように、大切に音に乗せていく。
どうか、この歌があなたの心に届きますように。
天国にいる夏音さんに届きますように。
これからもこうして由弦さんと一緒に歌を届けられますように。
たくさんの願いと祈りを込めて。
* * *
初のテレビ出演から数週間が経った1月下旬。
たくさんの反響をもらって驚いている中で、なんと4月の下旬と8月下旬にホール規模でのコンサートが正式に決まった。
今日はマネージャーの篠崎さん同席で由弦さんとコンサートについて打ち合わせだ。
「改めてコンサートの日程から確認します。公演日は4月28日の土曜日。会場は東京文化ホールです。コンサート・タイトルは結音ちゃん本人からの提案でスプリング・ガーデンに決定しました。タイトル通り、春の庭園がコンセプトです」
「……ということは、セットリストも春の庭園がテーマということですか?」
そこまでスタッフが説明したところで、由弦さんが尋ねた。
「ステージセットや衣装は春の庭園をイメージしたものになりますが、セットリストは春をイメージした楽曲で統一する予定です」
「私は、春からイメージを広げて、生命の誕生や、始まりがテーマの歌も歌いたいなと思っています」
スタッフの言葉に続いて、私も自分の意見を伝えた。
「じゃあ、まずは今回のテーマに合いそうな曲を全部リストに挙げてもらっていいですか? 今度の打ち合わせまでに全部聴いて、僕なりにセットリストの候補を考えさせてもらいます」
その由弦さんの言葉で、早速私が今までリリースした楽曲資料の中から、今回のコンサートのテーマに合いそうな曲をピックアップする作業が始まった。
この中から、特に今回のコンサートのコンセプトに合いそうなものを絞り込み、セットリストを決める。
「それでは、この中から1週間後のミーティングでセットリストを決めたいと思います。今日のミーティングは以上です。お疲れ様でした」
由弦さんはこのあとも別の仕事があるらしく、「また来週よろしくお願いします」と言って会議室を後にした。
「さすが遠坂さん、長年この仕事してるだけあって慣れてるわよね」
篠崎さんが感心したように言った。
「ホント、頼りになりますね」
一緒にいるスタッフも頷いている。
そして2月に入ってからセットリストを決めるミーティングを行った。
私が考えたもの、由弦さんが考えたもの、スタッフが考えたもの、それぞれを比べて意見を出し合う。
実際に楽曲を流して聴きながら、演出や演奏順も細かく考えていく。
話し合うこと数時間で仮のセットリストが決まった。
あとはリハーサルで実際に演奏してみて、流れが悪かったりイメージに合わなければ、曲を差し替えたり曲順を入れ替えたりして調整していく。
リハーサルと同時進行で、衣装やステージセットの準備も着々と進んでいる。
スプリング・ガーデンというタイトルから、色とりどりの花が咲く春の庭で歌う妖精をイメージした衣装とステージセットにすることが決まった。
ステージ衣装は春らしいふんわりした花柄のワンピース。
ステージセットは、洋館にある庭―イングリッシュ・ガーデンをイメージしたものになった。
コンサートのチケットも、発売日に完売した。
今までで一番大きな会場だから完売するか不安だったけど、ドラマタイアップ曲として初の1位獲得や初のテレビ出演で話題になったことで興味を持ってくれた人も多いみたい。
今まで以上にたくさんの人に私の歌を聴いてもらえると思うと嬉しくて、リハーサルも自然といつも以上に気合いが入る。
みんなに感動してもらえるコンサートにしたい。
それは、私だけじゃなくコンサートに携わる全ての人が思っていること。
みんなが成功を願って心をひとつにして作り上げていくものなんだ。